第194話 襲撃の後始末
俺もジルボアがグールジンを締め上げているのを遊んで眺めていたわけではない。
新しい取引の形について、いろいろ脳内で検討し、修正をしていた。
おおよその枠組みと構想ができたところで、グールジンに切りだす。
「グールジン、今回の件は失態だったな。あんたとの取引は考え直す。これからは流通の独占はなしだ。他の街間商人にも靴を卸すことにする」
ぐうっ、と声にならない唸り声を上げそうになるのを遮って言葉を続ける。
「だが、あんたには実績がある。その分は優遇しよう」
と約束する。街間商人を取りまとめる器としてのグールジンに不満があるが、1人の取引相手としてならば、これまでの実績もあるし、特に不満はないのだ。
それに、いきなり全ての取引を打ち切ってしまえばグールジンの面子は丸潰れであるし、隊商の部下達も生活に困るだろう。逆恨みして俺達の襲撃を企む連中が出て来るかもしれない。
こちらを襲撃してくる連中を減らすための打ち手で、襲撃者が増えるのでは本末転倒である。
「1週間後に、主な街間商人を集めて取引条件を詰める。希望する連中を集めてくれ」
そう言うとグールジンは何かを計算する目になった。
わかるよ、今度こそ自分の声を聞く連中だけに声をかけよう、っていうんだろう?
まあ、こちらでも声をかけるから、その企みは無駄になるんだが。
この場では、グールジンにも逆転の目がある、と思わせておいた方がいいだろう。
「では、1週間後に事務所でな」
解放されたグールジンは、こちらを振り返ることもせず足早に事務所を出て行った。
これから、いろいろと動き回るつもりだろう。
あの行動力を、もう少しマシな方向に生かせないものか。
そう考えていると、ジルボアに無言の合図を受けた数名の団員が静かに後を追って出ていった。
おそらく、グールジンが短絡的な行動に出ないか監視のためだろう。
「相変わらず、ソツがないな」そう呟くと「習慣でね」とジルボアに返された。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
残るのは、使い捨てにされた襲撃犯の後始末だ。
「おい、そこの。たしか、ガロンって奴の手下だったか?」
俺が声をかけると、縛られた男は無言で首をコクコクと上下させた。
「ガロンって奴にも取引を希望するなら歓迎する、と言っておいてくれ。ただし、今回の襲撃に対する罰則は受けてもらう。お前、自分の身代金は払えるか?」
そう問うと、男は忙しく首を左右に振った。
「まあ、無理だろうな。では、こうしよう。お前が同道してくるのであれば、ガロンを取引条件を決める場に加えてやる。そこでガロンが罰金を払う。お前を雇った事実を認めないのであれば、取引はなしだ。そう伝えろ。わかったか?」
そう言って合図をし、団員に男を縛っていた縄を切ってもらう。
すると、男は、転げるように走って事務所を出て行った。
これで、取引をしたければ罰金を払うだろうし、襲撃の事実に頬かむりするつもりなら男を始末するだろう。
「甘いな」
その様子を見ていたジルボアが言った。
「金にならないことは、嫌いなんだよ」
そう言い返したが
「金にならんことが嫌いなら、駆け出し冒険者を相手になどしないだろう?」
と笑われた。
俺は言い返す言葉がなかったので、むっつりと黙っていた。
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