第190話 襲撃の背後
「それで、こいつらを送り込んできた奴に心当たりはあるのか?」
ジルボアが椅子に座ったまま、俺に聞く。
「あるといえばあるが、こんな迂闊な連中を使う奴の心当たりはないな」
足元には事務所まで連れてこられた男たちが、顔を腫らしてガタガタと震えて座り込んでいる。
まあ剣牙の兵団の事務所で、武装した百戦錬磨の男達にお話されて、それでも口を開かないでいられるほど根性が座ってはいなかったようだ。
何度か異なった角度で質問を繰り返してみたが、結局、俺達を襲撃してきた連中は、最近、食いつめてこの街に来た流れ者だったようだ。
素性としては、そんなところだろうと思っていたので驚きはない。
気になったのは、俺を襲って攫うように金を貰って頼まれた、と口を揃えていたことだ。
思えば、この街では結構な数の人間を敵に回しているし、開拓事業や靴の事業でノウハウを目当てに俺を攫おうという奴がいてもおかしくはない。
ただ、同時に剣牙の兵団が背後として靴の事業にはついているし、開拓に関しては背後に教会がついている。
そこそこ事情に通じているのであれば、こんな食いつめた男達を数人送り込んだところで、何をどうできるとも思うはずがないのだ。
最近、事業に関する情報を得た人間で、俺の背後については知識が少なく、迂闊な行動をとりそうな人間か・・・。そこまで考えると、思いつく顔があった。
「グールジンの奴、失敗しやがったかもな」
街間商人に人脈を作って拡大しろ、とは言ったが信用できない連中にまで情報を広めたせいで、浅はかな連中が先に手を出して来たのではないか。
思えば、グールジンも最初は、俺を攫って秘密を吐かせる、などと言っていた。街間商人の荒くれ物達からすると、そうするのが自然な行動なのかもしれない。
俺が推測をジルボアに語ると、ジルボアも同意した。
「たしかに、この粗雑なやり方は街間商人の連中に近いな。街間商人だと、この街を離れている期間も長いし、最近のお前の事情に疎いのもうなずける」
俺が靴の事業を営んでいること自体は、この街の住人には広く知られていることであるし、身分が低く新興商人の割に金があり敵に回している人間は多い。ただ、その危険を減らすための手は、剣牙の兵団を背後に置いたり、事業を取り上げられないよう伯爵や教会のような社会の上層部と地縁を作って来た。
だが、この種の跳ね返りを全て防ぐことはできない。
グールジンには、そのあたり粗暴な連中を上手く取りまとめてコントロールして欲しかったのだが。
ただ、今のところは全て憶測だ。
まずはグールジンを呼び出して、事情を聴く必要があるだろう。
うまく運んでいるかと思えば、問題がでる。
事業とはそういうものだが、流通については少し考え直す必要があるかもしれない。
あとは、こいつらの始末だな。
俺が冷めた目で物盗りの連中を見詰めると、座り込んでいた奴らは震え上がった。
本日は22:00にも更新します




