第16話 靴の値段は
冒険者向けに靴を作る。それを普及させる。
文字にすれば、たったそれだけのことだが、途方もないことだ。
冒険者は、モノを知らないから貧乏なのだ。
靴は履いてみれば確かに有用だが、同じ金額なら、奴らは武器を良くすることを選ぶだろう。
そうして岩場で怪我して、戦闘中に泥で滑って死ぬ。
馬鹿な話だが、バカでなくなったときは、駆け出しを卒業する時だ。
つまり、駆け出しはみんなバカである。
サラも、その意見には賛成のようだ。
「あたし、弓兵だし、狩りもしてたから、あんたの言うことはわかる。
藪とか蛇が怖いし、いい靴あったら、履きたいと思うよ。
だけど、あんたの靴、高いんでしょ?」
「そうだな。俺の靴は大銅貨2枚はかかってるな」
なにしろ、足型を作るところから始めないといけなかった。
そうして、膠で靴の内革と木板を挟んで外革をとりつけ、木の踵を取り付け、鉄のスパイクを埋め込んである。
靴型も、左右で別にして、靴紐穴と靴紐を足首まで覆うようにしてあるのだ。
この世界では、完全なオーバーテクノロジーの一品である。
この靴のおかげで、俺は長距離の依頼もこなせたし、剣を使っての雨中の戦闘中に足を滑らせることもなかった。
洞窟や岩場でも安心して踏み込めた。
俺の短い冒険者人生を支えてくれた相棒である。
「なるほどねえ・・・。たしかに、あんたは前衛にしては小柄で細かったけどフットワーク良かったし、長距離の依頼でも軽く歩いてたわね。靴に秘密があったのね。だけど・・・大銅貨2枚は出せないわね」
サラはため息をついた。




