第158話 援助と知恵
その夜、村の教会で助祭達にサラを加えて、反省と勉強の会合を持つことになった。
助祭達は昼間の光景の衝撃が大きかったのか、言葉少なだったので俺が話を切り出すことになった。
「さて。これから、どうしますか?皆さんの地位と鍛えられた学識が試される機会だと、私は思うのですが」
そのように奮起を促すと、アデルモ助祭は声をあげた。
「あの農婦には援助をするべきだろう」
クレメンテ助祭とミケリーノ助祭も「そうだな」「然り然り」と賛同の意を表した。
俺は3人の助祭に問う。
「どの程度の援助が必要だと、お考えですか?」
ミケリーノ助祭が答える。
「1月に小麦1袋といったところか。それで当面は済むのではないか」
俺は続けて問う。
「どの程度の期間を、考えてらっしゃいますか?」
ミケリーノ助祭は答える。
「下の子供が成人するまでと考えると、凡そ10年程になるか」
俺は続けて問う。
「小麦120袋になりますね。それだけの余裕が、ここの教会にあるとお考えですか」
ミケリーノ助祭が言葉に詰まったのを、クレメンテ助祭が引き取って話す。
「なくはなかろう。見たところ教会の倉庫に集められた麦には余裕があった」
俺は問う。
「この村の教会からの喜捨が減ることを、中央の教会は良しとされますか」
クレメンテ助祭が言葉に詰まったので、続けて問う。
「どこまでの範囲を、考えていらっしゃいますか?」
アデルモ助祭が聞き返す。
「範囲とは何のことだ?」
「援助する対象の人数のことです。この村で、あの家だけが困っているとお思いですか。他の村にも似た境遇の子供たちは大勢いるはずです。それを全て援助できるだけの資力は教会にあるのですか」
ミケリーノ助祭が答える。
「なくはない。だが・・・」
「そうですね。出す理由がない。返済が望めないので出資は望めない。そうではありませんか?」
「・・・そうだ」と答えるミケリーノ助祭の声は苦かった。
俺は続けて問う。
「ミケリーノ助祭、教会では土地の開発に資金を投じようとされていますよね。その金額と、援助に使う金額には、どの程度の差がありますか」
「・・・1と1000に近いだけの差があるだろう」
俺は頷いて同意する。
「そうでしょうね。そのくらいの差はある筈です。資金というのは、増えるところに集まるものです。それに憤りを持っても仕方ありません。水が高いところから低いところに流れるように、自然に逆らうことはできません。
ですから、その大きなお金を、この村に招き入れましょう。畑を拓き、水路を拓き、水車を回して村を豊かにする。子供から婦人にまで農閑期の仕事が行き渡るようにしましょう。そうして流れ込んできたお金を増やして返す。そうすると、もっと資金が流れて来る。それを繰り返すための、最初の事例にするのです。
みなさん、知恵の絞りどころですよ」
そこまで言うと、助祭達はようやく前向きに施策を考える雰囲気になった。
だが、それで納得できない者もいた。
「だが、あの子供が救われるわけではない・・・」と、クレメンテ助祭は言う。
だから、憂いがなくなるよう言ってやることにした。
「あの子なら、来年に行き場がなければ工房で引き取りますよ。仕事も拡大中で人手が欲しいのでね。サラ、それでいいだろ?」
と呼びかけると、サラは「あったりまえじゃない!」と満面の笑顔で答えた。
明日は18:00と22:00に更新できると思います




