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異世界コンサル株式会社(旧題:冒険者パーティーの経営を支援します!!)  作者: ダイスケ
第十一章 農村を支援して冒険者を支援します

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第151話 紙の上の計画

それまで自信に満ちて疲れは見えながらも余裕のあった助祭達は、混乱していた。


「ニコロ様が、いらっしゃる?それは本当か?」


「ええ、すぐそこまで来ているはずです。準備を急がれた方がよろしいですよ?」


アデルモの問いに、笑顔で答えると、彼らはバタバタと準備を始めた。

それが大体落ち着いたところで俺は席を立ち、扉に向かった。


「それでは、呼んで来ますね」


実はニコロ司祭には、事前に連絡して教会の別室に待機してもらっている。

つまり、この部屋の騒動は筒抜けなのだ。

俺がゆっくりと扉を開けると、せっかちな彼らしく扉の前で待っていたようで、さっさっと、その痩身を部屋の中に歩み入れる。


「二、ニコロ様」


慌てて、助祭達が駆け寄ってニコロ司祭の元で跪く。なんだ、この光景。

司祭と助祭って、そんなに位が違うのか。それともニコロが位階以上に偉いのか。


ニコロは「うむ」とだけ頷いて足を止めることなく進み続け、正面の席に、どかり、と座った。


「では、はじめるが良い」


ええと、それは俺が言うべきセリフなんだが、まあ、いいか。


助祭達は慌てて立ち上がり、羊皮紙を抱えて一礼をした後で発表を始めた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


発表の内容だが、なかなか整理されていた。

なにせ、奇をてらわず手堅い計画なのがいい。

優秀な若手を集めた、というニコロ司祭の言葉に嘘はなかったようだ。


発表の仕方も良かった。

最初に、開拓の体制、期間、費用、利益などの結果を数字で発表し、その後に開拓計画の概要を述べる。

概要を章立てにして伐採計画、開拓計画、水路整備計画、水車小屋整備計画の順に施策を述べる。

その際に、根拠となる数値、資料、村人の証言などの証拠も固めてある。


指定された村の開拓計画としては、きちんとした計画に聞こえた。

この手順通りに進めれば、この村の収穫は増大するように見える。

発表した助祭達も、自信があるようだ。


ニコロ司祭も、目を閉じて黙って最後まで聞いていた。

人の話を聞けない、この男にしては珍しい。


「ふむ・・・終わりか?では幾つか試問がある」


そう言って目を開けた。


「期間内の計画については、それで良い。開拓計画が終了した後には、どうするつもりか?」


「終了後?」と助祭達は、キョトン、としていた。


開拓計画を立てろと言われたのだから開拓の計画を立てたのに、なぜ終了後のことを聞かれたのかわからない、という顔だ。


「そうだ。お前たちの計画は、領民の暮らし向上させるためのものだ。それは彼らの生活を良くも悪くも変えるだろう。畑が増えた者は富を増やし、増えなかったものは妬むだろう。水路に近いものは収穫を増やし、水車小屋の建設地の者は畑を減らすだろう。水路や水車小屋は頻繁に手入れしなければ、すぐに使えなくなるものだ。その負担を誰が負うのだ。そういった、開拓が終わった後のことが、お前たちの計画には考慮されていないようだが?」


そう重ねて問われ、助祭達は黙り込んでしまった。

言われたことだけをやる。教会組織の中では、それで良かったのかもしれないが、現実では、そうはいかない。何しろ、実際に生きている人間達の生活がかかっているからだ。彼らは、開拓計画が終わった後も、その地で生きていかなければいけない。助祭達には、その想像力が欠けていたのだ。ニコロ司祭の指摘は、その点を厳しく突いていた。


「もう一つある。計画が不慮の事故などで遅延した場合、どうするつもりか」


助祭達は顔を見合わせると、クレメンテが代表して問い返して来た。


「あのう、不慮の事故といいますと・・・」


「そうだな。伐採の際には怪物が襲ってくることもあろう。その際に開拓民が負傷したら開拓は大きく遅れるのではないか。開拓に手配した家畜が病気で死んだらどうするのか。水路を掘っている際に、大雨で水害となったらどうするのか。水車小屋の技術者の手配が遅れたらどうするのか」


リスク管理について、どう考えているのか、ということである。紙に書かれた計画は、実行されるまでは失敗しない。だが、実際に始めてみれば様々なトラブルが続出することが考えられる。そのリスクについて、どの程度まで考えてあるのか。想像力を働かせているのか。書類仕事と現実は違うのだ、と重ねてニコロ司祭は厳しく糾弾する。

助祭達は、先程までの自信を打ち砕かれて、完全に黙り込んでしまった。


「だが・・・」とニコロ司祭は続けた。


「この短期間で初めて立てたにしては、なかなかの計画だ。基本の叩き台には使えよう。よくやった」


思わぬ褒め言葉に、助祭達の顔が輝き、上を向く。

ニコロ司祭は彼らに向かって頷いた。


「私は、すこしケンジと話がある。お前たちは先に戻ってよい」


ニコロ司祭がそう言うと、助祭達は一礼して静かに扉から出て行った。

教会の一室は、途端にガランとして、俺とサラ、ニコロ司祭だけが向かい合う形になる。


「さて、お前とは少し話がある」


まあ、そうでしょうね。


俺にとっては、これからが本当の試験だ。

本日は22:00更新は難しいかもしれません。

明日も18:00更新はできますが22:00更新は難しいかもしれません。

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