第15話 靴へのこだわり
俺が靴に拘るには理由がある。
冒険者は、歩くのが商売だ。
依頼された場所まで歩き、怪物と戦い、歩いて帰ってくる。
歩けなくなったとき、冒険者でいられなくなるのだ。
俺が膝に矢を受けた後、冒険者を辞めた理由だ。
「靴の良し悪しは冒険者の生命に直結する」
というのは、俺の直感だけの話ではない。
ツアー案内の記録を眺めている内に、発見したのだ。
資料では、依頼を受けたものの無事に帰ってこなかった連中についてまとめていた。
それによれば、冒険者連中の負傷要因の4割が、依頼先への移動の途中で起きている。
農道と都市ぐらいしか歩いたことのない連中が、安物のサンダルで洞窟や岩場へ踏み込んで、足を怪我するのだ。
足を怪我すると、移動がままならない。戦うなど論外である。
3-5人で動いている初心者パーティーで1人が足を怪我すると、それだけで大幅な戦力低下を引き起こす。
それに深い藪へ踏み込んで、草で足の甲を切ったり、蛇に噛まれたりすることもある。
熟練の野伏ならそんなことにはならないが、彼らの殆どはついこないだまで農地を耕していた連中である。
怪物が生きている、生の自然の恐ろしさが体でわかっていないのだ。
わかったときには、傷んで膿んだ足や、動けない仲間を抱えて二進も三進もいかなくなっている。
あるいは、傷んで膿んだ足に無理をさせて、病気になる、不具になる。
そういう、つまらない事故を減らしたい。
農村から希望を胸に出てきて、最初の仕事で足を捻挫して死にました。
という結末は、あまりに悲惨じゃないか。
冒険者の駆け出し連中は、バカだが、少しはマシに生きて雄々しく死ぬ機会を与えてやりたい。
買い物に付き合っているうちに、俺にも連中に情が湧いて来たらしい。
ムサくて汚い無学な奴らだが、こいつらにも、もう少しマシな条件で人生をスタートする権利はある。




