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異世界コンサル株式会社(旧題:冒険者パーティーの経営を支援します!!)  作者: ダイスケ
第十一章 農村を支援して冒険者を支援します
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第145話 助祭達抜きでも

憤然として、クレメンテと呼ばれた男が立ち上がり、出口に向かうのを残りの2人が衣の裾を掴んで抑えている。

剃った頭から湯気が立ち昇るのが見えるようだ。あれで湯が沸かせそうだ。

何やら低い声で口論しているのを、俺は冷めた目で眺めつつ声をかけた。


「少し、休憩としましょう。皆さんは何か、ご相談があるようですし」


そう言いおいて俺が部屋を出ると、サラが焦って追いかけてきた。


「ね、ねえケンジ!助祭様達に、あんなこと言って大丈夫だったの?」


「わからん」と正直に答えると、


「わ、わからないって・・・」と、サラは絶句していた。


しかし、わからないものは、わからない。


この世界で、どの程度に聖職者に権威があるのか。俺はどうも、ピンときていないところがある。

だから、ごく普通に学問を学ぶ際の態度を説いたつもりだ。少し、ニコロ司祭に言いつけるよ、と繰り返し過ぎた気もするが。


奴らの頭の出来を否定する気はないが、競争の激しい世界で勝ち抜いてきたせいか、人の揚げ足を取ることを知性だと勘違いしている節が見える。

ただでさえ難易度の高い内容、この世界では初めてのことを教えようというのに、あの態度では話にならない。


必要な人材は、無知な庶民に高説を垂れてだまくらかすことを知性と勘違いしている輩ではなく、未知の知識をどん欲に求め、必要であれば道端の子供にでも跪いて学ぶ姿勢のある学究だというのに。

あるいは、単純に金銭と現世利益に目が眩んで小銭を探すためなら溝を浚うような者でもいい。


若く自分に自信があるから仕方ないのかもしれないが、知らないことを知らないと言える程度の、知性的態度を示してくれないと一緒に事業を進めていくことができない。

知性的態度という意味では、この無知な農民上りの冒険者であるサラの方が、何倍も優れている。


とは言え、啖呵を切ってしまったものは仕方ない。対応策を考えなければ。


まず、助祭達に無礼な態度を謝罪し、和解して講義を続けるのはどうか。

メリットは、新しくコストがかからないこと、彼らを紹介したニコロ司祭の面子を潰さないこと、若手の助祭達の恨みを買わないこと

デメリットは、おそらく知識の伝達が中途半端になること。それにより事業を評価する基準、ひいては事業の失敗する確率が上がること。失敗とは、農村の税金があがり、農民の生活が圧迫されることだ。

つまり、この選択肢はなしだ。


次に、助祭達を抜きにして進める方向はどうか。

具体的には、ニコロ司祭ならば理解できるよう詳細なテキストを作成し、評価基準自体は俺が自分で作る。実地との差異は、身分の低い実務者とチームを組んで、実際に教会の領地に出かけて試行錯誤して埋める。そうして、成功事例を作る。成果が出てから、ニコロ司祭が若手の助祭達に広める。


メリットは、成果が出てからの話になるので話を聞いてもらいやすいこと。俺が監督するので評価基準作成の精度が高まること。チームに専門職の人間を入れるので、彼らをスライドすることで実務組織を立ち上げやすいこと。

デメリットは、初期費用が大きくなること、若手助祭を紹介したニコロ司祭の面子を潰すこと、若手助祭に恨まれること、俺の負担が増えることだ。


それと、なんとなくだが、ニコロ司祭の、理屈屋でたか転びしそうな若手助祭達の教育を、この際に済ませてしまおうとの思惑が透けてみえる。なぜ俺が、そんなことをしなければならないのか。教育は自分でやってもらいたい。


助祭抜きでもやれるな。奴らの態度が変わらないならば、それはそれで構わない。

そう見通しがつくと、覚悟が決まった。


さて、助祭達の結論はどうなったかな。

彼らの結論を、むしろ楽しみにして、部屋のドアを開ける。


ギョッとしたように、奴らがこちらを向く。


「さて、結論は出ましたか?」と、むしろ静かな声で、俺は助祭達に問いかけた。

本日は18:00にも更新します。

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