表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界コンサル株式会社(旧題:冒険者パーティーの経営を支援します!!)  作者: ダイスケ
第十章 教会と協力して冒険者を支援します

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

141/763

第140話 聖職者の交渉力

「少しか。では少し待とう」


そう言って、ニコロは書類の広げ、書き物に戻った。本当に少ししか待たないつもりだ。

こちらの都合など全く考慮してくれない。

仕方ない。腹を決めよう。


「わかりました。その件、お引き受けできません」


俺はそう拒否したが、ニコロは表情を変えずに問うてきた。


「理由を聞こうか」


「手法を示すことはできます。ですが実際の成功は覚束ないからでございます。失礼ながら、ニコロ様は貴族様方の出してくる農地の税収について、完全に数字を信頼することはございますか」


ニコロは片方の眉をあげて、答える。


「できぬな。そもそも貴族は税収を過少に申告するものだ」


「そのように聞いております。今のように信頼できる数字がとれない状態で、いくら机上で計画を練ったところで事業がうまくまわる筈がありません。暗闇の中で灯り一つなく坑道を歩くようなものでございます。誤った数字をいくら弄っても、誤った結果しか導かれないものです」


たかが冒険者ギルドの案件評価をするだけでも、俺がこっそりとウルバノの権威を使って独断で全てを設計する必要があったのだ。それを、ニコロが考えるように王国全体に適用しようとすると、どのような混乱が起きることになるか、想像もできない。そして、その混乱の中では、俺の命など紙屑よりも簡単に吹き散らされることだろう。何を好き好んで、そのような修羅場に飛び込みたいと思うものか。


「ふむ」と呟くとニコロは続けた。


「つまり、時期尚早である、というのだな」


「さようでございます」


「どうなれば、可能であるか」


ニコロに問われて、俺は少しばかり誇張して答える。


「王国や貴族様の領地について、中立で正確な計数を取り扱う機関が必要です。市井の学者や民草にも開かれ、数字の妥当性について広く論議され、意見を容れて修正できる文化が必要です。計数が信頼されるために、少なくとも10年の積み重ねが必要です」


俺が言っているのは、正確な数値を王国全土から集め蓄積したければ、統計局という部署を設けろ、ということである。政治に左右されず信頼できる数字を蓄積する全国組織がなければ、まともな中央集権国家は運営できない。

税金や献金の収支計算については現在の教会でも辛うじて官僚組織が機能していると見えるが、それ以上のことができる組織の体力はあるのか、と問うたのである。当然、難しいだろう。元の世界でも信頼できない統計をあげてくる国家は多い。要するに、これは無茶振りばかりしてくるニコロへの、俺なりの意趣返しである。


だが、ニコロは俺の密やかな反駁を意に介さずに問答を続ける。


「なるほど。では教会が管理している領地であれば可能ではないのか。数字を管理しているのは身内であるから、誤魔化しは難しかろう」


大きく風呂敷を広げてから、小さくたたんでみせて譲歩を迫る。教会のような大組織で枢機卿づきの司祭をやっているということは、相当に交渉の修羅場をくぐっているということでもある。ニコロは、さすがの手腕で粘り強く議論を誘導する。

そして、そう言われてみれば、できる、と俺も思ってしまった。


その表情に意を強くしたのか、ニコロは、畳みかけるように言った。


「あるいは、教会で測量士なり計数に強いものを派遣し、帳簿と農地を調べることに同意した場合のみに貸し付けるのであれば、可能ではないのか」


「たしかに、可能です。できると思います」


俺としては、そう答えざるを得ない。


要するに、事業のお金を貸してやるから、財布の中身を見せてみろ、話はそれからだ、ということである。

難しく言えば、事業評価を正確にするために、事業投資のガバナンスと監査の問題をクリアできる対象のみに投資するならば良いだろう、と言っているのだ。


「お前が事業と関連する制度を手掛ける気はないか。聖職者となれば、教会全体の事業にできよう。聖職者になる件は、私から枢機卿にお願いをする。そうして王国全体の政策を奏上する機会など、平民には二度と得られぬ好機であるぞ」


そう言って、再び俺に聖職者にならないか、と誘いをかけるのだった。

さすがに、枢機卿づきの司祭ともなると、頭の切れも交渉力もタフだ。

なかなかに手強い。

明日は12:00と18:00に更新する予定です。

12:00更新は少し遅れるかもしれません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一二三書房様 庭に穴が出来た 特設ページです https://www.hifumi.co.jp/lineup/9784891998769  バナーは書籍の特設サイトです 

i252242/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ