第129話 まず土地を肥やそう
冒険者ギルドを出ると、待ちかねたようにサラが話しかけてきた。
「ねえ、今度はどんな悪いこと考えてるの?」
サラさん、最近、表現がキツくないですかね。
「冒険者ギルドから、駆け出し連中に金を流す方法を考えてるのさ」
結局のところ、金銭は、あるところからないところにしか流れない。
冒険者ギルドが儲かる状態でないと、冒険者に金が流れない。
そう考えたからこそ、あの二重顎を煽て上げて、冒険者ギルドを改革し、儲かる状態にした。
これからも定期的に見てやらないといけないが、それはまず上手く行ったと言える成果が出てきている。
そして、これがもっと重要なのだが、施策がうまく行っているかいないか計測するための情報を、報告書作成を継続的に請け負うことで独占的に入手できる。
今のところ、あのレベルの報告書を作成できるのは俺だけなので、排除される心配は少ない。
それに、未来永劫、情報を握ろうというのではないのだ。
あの報告書を元に、王国が冒険者事業の改善を図る機運が起こるまで、大体10年ぐらいと俺は見ているが、それまで、この街の冒険者事業を儲かるようにし、その事実を報告し続ければ良い。
冒険者事業は、やり方によっては儲かる、と認識させることには成功した。
次は、駆け出し冒険者を保護し、援助すれば、もっと冒険者事業は儲かる、と証明し、認識させることだ。
「なんか、ケンジのやり方って、まわりくど過ぎて、ときどきわかんない」
と、サラが少しの苛立ちを込めて、寂しそうに言う。
「そんなことはないさ。畑で収穫をあげようと思ったら、土地を肥やすことから始めるだろ?」
サラが頷くのを待って、続ける。
「冒険者ギルドにとって、冒険者は土地なんだ。土地を肥やさないと、収穫はあがらない。その当たり前のことを、ギルドや王国に気付かせてやるのさ」
「例えはわかるけど、土地扱いっていやね。すごく、土臭い田舎者っぽい」
「まったくだ」
そう言って、俺とサラは笑った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
冒険者を本業で、もっと儲かるようにしてやる。
まずは小さなことから始める。
不足している素材は、やや高値で買い取ってもらえる。
それを目端の利かない冒険者にもわかってもらえるよう、視覚に訴えるようにした。
窓口担当者にかけあい、絵と数字で示した素材買取表を記した壁の前に、小さなテーブルを置き、在庫が不足していて高値で買い取ってもらえる素材を2つ置く。
1つは、状態のよい素材。もう1つは、状態の悪い素材である。こちらは粗大ごみ予定の中から拾ってきた。
こうすれば、どちらが良くて、どちらが悪いか一目瞭然である。
冒険者連中というのは、農民上りが多く、品質とか納品という概念が薄い。
さんざん、街で騙されてきているので、品質が悪くて値段が引かれる、と説明されても、また口の上手い街の連中に騙された、と思うのである。だから納品される素材の品質は改善されない。
ギルド側でも、これまで儲かろうが儲かるまいが価格は固定されていたし、その儲けは窓口担当者までは還元されてこなかった。だから、品質の管理については、いい加減だったのだ。けれども、その状況は変わっている。いいものを納品させれば、彼らも儲かる。そう認識してからは、本当に話が早くなった。今回の取り組みも、窓口担当者は積極的に協力してくれた。
これは、規模は小さいが不足している素材の高価買取キャンペーンというやつだ。今なら銅貨プラス5枚!というわけだ。
人間に訴える視覚の効果というのはエライもので、冒険者達は素材が置かれたテーブルの近くに集まり、ザワザワとしている。
まあ、良い素材と悪い素材で買い取り価格が大銅貨1枚も違えば、目の色も変えようと言うものだ。
中には、窓口担当者のところに行って、良い素材の取り方や品質の保持について聞いている者もいる。
目端の利いている連中の中には、素材の剥ぎ取りについて加工する職人のところに聞きに行こう、などと言っている連中がいる。
いいことだ。しっかり本業で稼いでくれ。
サラに「ちょっと悪い顔してるよ」と言われるのも構わずに、ニヤニヤとしつつ、俺は、その冒険者達の活気をしばらく眺めていた。
本日は18:00にも更新できると思います。
トップページの「今日の一冊」にて本作が紹介されております。
よろしければご覧ください。
(この文章は次の本が紹介されるまで約1週間、続けさせていただきます)




