第126話 整理整頓
開拓事業と並んで、冒険者ギルドのもう一つの収益の柱。それは、怪物素材の買取である。
怪物を倒すと、家畜では取れない硬質な皮や、ある種の魔術触媒などを手に入れることができる。
それらを冒険者ギルドが、冒険者が買い叩かれることを防ぐために、一定金額で買い取って在庫として蓄積し、市場に適切なタイミングで流すことで収益とする、ということになっている。
だが、俺はその建前を、ハッキリ言って疑っていた。
これまでのギルドの業務効率を見ていると、とてもそんな小回りの利く賢いことをしているハズがない。
それに、俺が冒険者時代も、怪物素材の価格見直しをしているところなど、ほとんど見たことがなかったし、逆にギルドに素材を買い叩かれることが多かった。
俺が、素材の価格表を独自につけるようになったのは、そのせいである。
もっとも、その蓄積が、この商売に繋がっているのだから、何が幸いするのかはわからないが。
とりあえず、サラと窓口担当者を伴い、まずは素材の倉庫に案内してもらうことにした。
倉庫はギルドの裏手にあり、外から見る限り天井は高く、反対側には馬車をつけることができる空間が設けられて搬出に便利になっているように見えた。
扉をあけると、そこはカオスだった。ゴミ箱と言ってもいい。
倉庫の中は薄暗く、怪物の素材は生ものなのでムワッと血臭とないまぜになった得体のしれない臭いが籠り、それらは箱に入れられて天井近くまで乱雑に積み重ねられている。どこに何があるのかなんて、全くわからない。
俺とサラは、とりあえず扉の前から逃げ出した。臭いが痛くて目から涙が出るなんて初めて知った。
サラは、ゲホゲホと、吐くように咳き込んでいる。
「なんだ、あれは!」と、思わず同行した窓口担当者に大声を上げてしまった。
倉庫に行く、と行った時に担当者同士が遠慮し合い、扉を開けるときにも離れていた理由もわかった。
「なんだと申されましても、素材の倉庫です」
「倉庫の管理担当者は?」
「特におりません」
「じゃあ、どうやって素材を処分してるんだ?」
「契約している工房の方が、必要に応じて馬車で取りにいらっしゃいます」
それは、何もしていない、というんだ。
とりあえず、管理らしい管理が行われていないことはわかった。
まず、この倉庫を何とかしないと、何も始めることができない。
しかし、この倉庫、何年放置されていたのやら・・・。
ただし、倉庫の中の素材は腐ってもギルドの資産なので仕事の進め方には、注意が必要だ。
本当は、俺の手配で人足を銅貨で集めて人海戦術でゴミ捨てと掃除をしてしまいたいのだが、不良在庫でも在庫は在庫。例え生ごみでも、帳簿上は、ギルドの資産である。
もっとも、この状況を見ると、まともに帳簿をつけているのかどうか、はなはだ怪しいものだが・・・。それでも、政治的にウルバノを攻撃する材料はないに越したことはない。
ゴミ捨てと掃除と素材の棚卸を並行して進めるしかないだろう。
まずは俺が素材の一覧表を作成し、それをサラが数えながら表と数字を埋めて、窓口担当者が不正がないかチェックをする、という体制にした。
仲良くなったとはいえ、彼らも冒険者風情に命令されるのは、なかなかやりにくかろう、と配慮してのことだ。
力仕事を担当する人足を駆け出し冒険者から銅貨で手配しつつ、俺が最初に駆け出し冒険者に斡旋する仕事がゴミ捨てと倉庫掃除とはね、と苦笑するしかない。
駆け出し冒険者達が、守護の靴を仕事のために履けるのは、いつになるか。
俺も努力しているつもりだが、その日はなかなかに遠いように見えた。
明日は12:00と18:00に更新できると思います。12:00は少し遅れるかもしれません。
トップページの「今日の一冊」にて本作が紹介されております。
よろしければご覧ください。
(この文章は次の本が紹介されるまで約1週間、続けさせていただきます)




