依頼
「こんばんはお嬢さん。月の綺麗な夜に」
「こんばんは泥棒さん。雪の瞬く夜に」
ウォーリーはブランコに向かって優雅に一礼した。
キイキイと鳴る椅子には、寒さで頬を真っ赤にした女の子が小さく丸まっている。
「まさか来てくれるとは思ってなかったわ」
「でも来ると思ったから、君は待っていた。僕らは君の呼び声を聞いて来ただけだよ」
ありがとう、と女の子は呟いた。
ふと足元を見て目を細める
「この黒猫ちゃんはあなたの飼い猫?」
「友達のジャック。困ったときにいつも助けてくれる」
『飼い猫』というワードをそっと訂正する。
ウォーリーはジャックに対して一度もそう思ったことはなかった。
「そっか……いいお友達ね。おいで、ジャック」
ジャックは女の子の膝に素直に乗り、ひと声ニャアと鳴いた。
抱きしめるとふさふさとした黒の毛並みが心地いい。
「改めて自己紹介をさせてもらうよ。僕はウォーリーで、こっちはジャック。 君の助けになりたくて来た」
女の子はゆっくりと答えた。
「わたしは、……ユリ。わたしの幸せを盗んで欲しくて、泥棒さんにお願いしたの」
そう、彼らはそのために来た。
この年端もいかない少女から、人が羨むほどに輝く『幸せ』を盗むために。
「お願いウォーリー、ジャック。わたしの『パパとママ』を盗んで!」
並々ならぬ事情があると見えた。
しかし彼らはそれを聞かない。
彼らが盗むことで何が変わるのかは、少女自身が決めることを知っているから。
「それじゃユリ、明日の同じ時間に、ここで」
それきり彼らは何も言わずに、雪の中へ消えた。