景色
薄く空に張った雪雲が、ぼやけた月の輪郭を映し出す。
「猫の世界にも恋愛があるの?」
「ロマンチストはどこにでも居るモノなのニャ」
煙突に腰掛ける一人と一匹。
頭に雪を少し乗っけた黒い猫は、名をジャックと言う。
彼らは今朝からずっと黙ってそこに座っていた。
家々の屋根に降りつむ雪は距離感を失わせ、どこまでも広がっていくように見える。
昼間の喧騒が嘘みたいに綺麗だ。
時折吹く風が眼に当たるたびに強く瞼を閉じる。
雪が鼻の頭に乗って、ジワリと溶けた。
「……そろそろだ。行こうか」
ウォーリーが取り出した懐中時計は12時を指していた。
家の中を照らす灯りもぽつぽつとまばらになった、真夜中零時。
「足すべらせないでね」
「我輩にそれを言うか。屋根の上なんて庭みたいなもんニャ」
煙突のところから滑り降りて、軽く軒を蹴って隣家に飛び移る。
一人と一匹は音も立てずに空を移動する。
煙突付近は雪が解けていて危ないので慎重に。
「ジャックと友達になれて良かったよ。僕は元々、こんな危ない事は出来ない子どもだった」
ウォーリーは飛び跳ねながら言った。
今ではもうこの程度では息切れもしない。
『猫』って楽しい。
スリリングな動きでもしなやかな身のこなしでやってのけてしまう。
少しクセになりそうで怖い。
「おっと、公園が見えたニャ」
「オッケー降りよう」
屋根から地面へ、やはり危なげもなく。
足の裏に伝わるさっくりとした雪が心地よかった。
彼らの着た場所は、とある小さな公園。
街灯が少ないせいで人目に付きにくい。
「さて、始めようかジャック」
「いつでもいけるニャ、ウォーリー」
彼らは今日ここで、盗みを働く。