何の変哲もないデート
時人と雪のデート
「ふぉっ…」
休日、時人の家に遊びにきた。
何となく冷蔵庫を見るともやしとドレッシングくらいしか入っていない事に気づいた。
あ、鳥肉もあった、チキンだチキン。
「雪ちゃん、何人の冷蔵庫漁ってるの…もしかしてお腹空いた?」
「時人また最近カップ麺とかですごしてるでしょ」
ばれた、という顔をする。
身体に悪いからやめて欲しいなあ。
「そ、それは別に…たまに野菜も食べてるし…」
「もやしだけじゃん!」
「きゅうりも食べてる!」
「きゅうりは栄養がなーい!!」
ノットグッドチョイス!
「どうするの、店しまってたら!」
「その時は食べない!」
「死ぬーっ!」
もう、毎日確認しないとふとした時に消えてしまいそうだ。
「あのさ、雪ちゃん。」
「…何。」
手を握られる。
「心配してくれてありがとう。」
すぐに手を離す。
心配してることわかってるならなおせよバカ。
今日はそんな時人とそこらへんの街へいって生活用品を買ったりしようと思っている。
デート。
…デートって映画とか見に行くものだよなあ。
「時人、今日さ街にいかない?」
「え、えっ!?」
時人は突然言われて慌て始める。
別に水族館とか行くわけではないのに。
「いいでしょ?たまにはさ。」
「うん、まあ…うん。」
「何?不満?」
家でゲームしていたいのかな。
パソコンしていたいのかな。
単に外に出たくないのかな。
「雪ちゃんと二人でいたかったな〜……なんて。」
「は!?」
予想外の言葉に驚いてしまう。
ここでそうだね、と言ったら終わりだ。
確かに二人でずっと一緒にいたいけども。
「そ、外でだって二人でいるから!」
「ん〜…わかった。」
頭をかきながら時人は服を着替えに行った。
…そのためにちょっとおしゃれしてきたけど、まあセンスないから可愛いなんて言われないよね。
「化粧してないし。」
「もう外すごい暖かいね。」
外にでたばかりで太陽が眩しいのか、手で目を抑えながら時人が言う。
私はその手をとる。
「ぐあぁっ!!目が!目がぁ!!」
「ほらいくよ!」
時人の手を繋ぐか迷う。
触れそう。
少し戸惑っていると時人が私の迷っている手をつかんだ。
「…!」
「…デ、デートだと思ってるから僕。」
目を見開く。
これでこっちを見て言ってくれてたら完璧なのに。
「誰に向かって言ってるのかな」
「あーもういいです言いません。」
時人の照れてる顔を見て顔がにやけてないか、心配だ。
「でもさ、クラスの人に見られたらどうするの?」
「適当にごまかす〜」
「付き合ってないもんね」
付き合ってるみたい。
「付き合ってもたいして変わらない気がするのは私だけかな。」
冗談まじりにいう。
これは言っていいことだっただろうか。
「結婚しても変わらないよ。」
一個上手の事を言われた。
そうだ、まだ私結婚できないんだもんね。
「じゃあもう少し先の話だね。」
「あと、何年かね。」
それまではこのまま。
「そうだ、雪ちゃん。」
「何?」
「映画でも見に行かない?」
とてもデートらしい。
「何見にいこっか。」
「最近公開したあの……」
時人が一生懸命に話してる。
でも私は気づいてる。
いつもより時人がこっちを見ない…というか避けてる気がする。
なんだろう、何か隠し事してるのかな。
「ね、見に行こう?」
「あ、うん!」
繋いでる手が不安に思えた。
時人の隠し事ってなんだろう。
そりゃ時人はたくさん隠し事をきているだろう。
まあ、くだらない事なんだろうな。
親が家にきたとかだったらどうしよう。
無理に気配ってる事になっちゃう。
隠し事は、いやだなあ。
「面白かったね」
「うん。」
考えるよりも先に映画にのめり込んでしまった。
「時人さ、今日何か隠し事とかしてない?」
「え?」
iPhoneをいじる手が止まる。
「そうかなあ。」
そりゃ隠し事してる?って言われてうん。なんて言わないか。
「まあいいや。次何処行こうか?」
「そういえば美味しいアイス屋さんできたんだって、そこ行こうよ!」
「へぇ、時人詳しいね。」
外に遊びに行く事があまりないのに、なんでそんな知ってるのかな。
「…その、今度雪ちゃんと街に行こうと思ってた…から。」
「え!?」
それは、デートしようと思っててくれたって事だろうか。
だから街に行くのをしぶったりしてたんだ。
「あーあ、完璧なエスコート目指してたのに。」
「嬉しいよ時人、ありがとう。」
笑顔がこぼれる。
愛されているなあ。
「その笑顔が見れただけで許せる。」
そう言って微笑んでくれた。
「時人何味頼んだ?」
「ストロベリーベリーミックス味!」
乙女か…。
「雪ちゃんは?」
「んーと、キャラメルなんだかかんだか!」
新商品って書いてあったから頼んだだけだ。
新商品っていっても開店したばかりだから新商品もくそもないと思うのは私だけなのかな。
「あ、美味しい!」
女々しいストロベリーなんだか味は案外美味しそうだ。
こうゆう選ぶ店では新しいものにチャレンジする派とメジャーなものを頼む派がある。
私はもちろんチャレンジ派。
「時人のストロベリー味一口もらっていい?」
「え!?」
「だ、大丈夫、ちゃんと小さいスプーン持ってくるから!あ、持ってて、アイス!」
渡そうとした私のアイスを時人はそのまま一口食べた。
「…美味しい。」
「あ、や…あの…」
た、食べられた。
「僕のもどうぞ。」
平気でこうゆうことできる時人はズルい。
少し恥ずかしくなりながらも、だされたアイスに口をつけた。
「どう?美味しいでしょ。」
「甘い、です。」
恋人みたいで異常に恥ずかしくなった。
時人が口をつけたところを変に意識してしまうのは、不可抗力。
「次は何処にいくんですか?」
アイスを食べ終わり、ベンチに座った。
予定をたててたなら、それにそって行こう。
「それがですね。」
「はい。」
「ここまでしかですね…」
時人の顔は少し青ざめている。
もう少し決めていると信じてた。
決めてなくてもその場で決めて欲しかった。
「あ。」
そして社会の窓も閉めていて欲しかった。
「社会の窓あいてるんだけど」
「ひぃいっ!?」
慌てて閉め始める。
たいして何か感じるわけではないが他の気づいた通りすがりの人に申し訳ない。
「このままベンチにずっと座っているのも良いかな…」
「こ、こんなデートですみません…」
こんな、なんだ。
じゃあ次はもっとすごいのを期待していいのかな。
「すごく楽しいよ。」
まあ、こんなぐだぐだでも時人らしくて楽しい。
「よかった…。」
「時人さ、今日…なんかやっぱり隠してるよね?」
さっきよりはなおったが、やっぱりこっちをあまり見ない。
緊張してる…?いや、二人でいるのなんて別にいつもだし。
時人は少しまいったという顔をした。
「それは…雪ちゃんが…」
「え?私?」
私もしかして何かしたんだろうか。
何も思い当たる節はない。
「雪ちゃんが可愛いから…」
…
「絶対違うだろ」
「あうっ」
その場でビンタを一発見舞いする。
お世辞は少しくらいうまい人だと思ってた。
お世辞でも照れてるのは気のせい。
「…目のやり場に困るだけ。」
「え?」
時人の顔はみるみる赤くなっていく。
いや、そこまで胸元あいてないだろ。
「いつもより可愛いし…普段も可愛いのにもっと可愛くなられたら困る。」
「うっ…」
そこまで可愛いと言われると照れる。
ちゃんと服とか見ててくれたんだ。
「ほ、ほら!次何処行こう!?」
「そうだなあ…」
何処に行くか考えていると、女の子と目があった。
小学二年くらいだろうか、可愛い。
そのまま女の子は私の所へと来た。
私はベンチから降り、女の子に目を合わせるためにしゃがむ。
「どうしたの?お母さんは?一人?」
「お姉さんとお兄さん、付き合ってるの?」
「へ?」
尋常じゃないくらい汗がふきでる。
付き合ってないよ〜と言ったらこの子の夢を壊してしまうような。
「付き合ってないよ。」
時人がはっきり言う。
「じゃあ結婚してるの?」
「は!?」
何故付き合ってなかったら結婚になるの!?
子どもの想像力がわからない。
「ん〜」
そこは悩むなよ!
「結婚もしてないよ!」
「じゃあ夫婦なんだね!」
なんでそっちにいく!?
ここは落ち着いてかえそう。
「夫婦じゃないよ〜」
「じゃあなんだって言うの?」
突如女の子が冷たい顔になる。
「え…な、なんだろう…ねぇ…?」
「友達だよ。」
友達以上恋人未満の言い方をそろそろ考えるべきだろうか。
「じゃあお兄さんとお姉さん、夜中にベッドで運動会する仲なんだね!」
「な、なんでそうなるの!?」
なんで小学生がそんな事を知っているの!?
「まあ否定はできないかな」
否定しろ!!!
否定はできないけど!!!
「あ、花何処行ってたの…!」
お母さんらしき人が来た。
なんだ、迷子だったのか。
「すいませんね、楽しいデートのところ。」
「違います!いや、あの、全然…迷惑は…してないです、はい。」
デートしてるように見えるって事なのかな。
「お姉さん、お兄さんばいばい。」
「花ちゃんばいばい。」
可愛かったなぁ。
「可愛かったね。」
「うん、可愛かった。」
あんな子欲しいなとか言ったら笑われるかな。
何も言わず後ろから抱きしめられる。
「重い…」
「雪ちゃんと似た子が出来ちゃったら僕毎日幸せすぎるかも。」
「えっ、えっ!?」
「冗談〜」
顔がすぐ真横にある。
さすがに人通りはあるため、恥ずかしくなってきた。
公共の場なんですけど。
「そうゆうのは帰ってから…」
「何?」
聞こえてるくせに…
わざと大きい声で言う。
「冷蔵庫に入れるもの買いに行くよ!」
耳に響いたのか、私からはなれて耳をおさえはじめる。
「OK、OKです。」
「帰るの楽しみ。」
空耳が聞こえたような気はした。
一日食べなくても生きてられるよ〜とか言う友達は時人のもやしあるあるネタ要員です。