みっつめ『みたいな話。』
私が両親に抱いているイメージは暴力的だということだけで、他の雑念はおまけ程度にしかならない。
よく母さんも暴力を振るわれていたりするけれど、「それも愛だから」だとか「ちゃんと見てくれてる証拠」とか言っていて、それを聞いた時は頭イかれてるんじゃないかと思った。その訳分からない理由で私は母さんにも殴られている。暴力の愛にも限度があるんじゃないのか。色々おかしい。
最近は監禁されてしまい、高校にも行けず、退学が怖い。最近やっと彼氏が出来たのに。私を受け入れてくれる人がやっと、出来たのに。
例にによって私の人生観はとっくに厭世と化している。もう諦めて良いのだろうか。
十七の時には、一度反抗したことがある。酒を飲んで顔が赤い時に煽ってやった。父親は赤い顔を更に真っ赤にしてぶん殴ってきた。仕舞いには酒の入っているビンを頭に殴りつけようとしていたが、流石に自重したらしい。とばっちりで母さんも殴られていた。そう、私は虐待を受けていた。
人生の回想夢から目覚めると、珍しく両親が喧嘩していた。そして同時に、今日は父親が母さんを殴っている様子は無い。
どうやら、この怒鳴り声の往来のせいで目覚めてしまったようだ。低い声がガラガラで、相変わらずうるさい。甲高い声は少し不快感を煽る。手足が縛られていて、それが外れないので耳が塞げない。
こんな怒鳴り合いの中、一つの呼び出し音が鳴った。その瞬間怒鳴り声は止み、一瞬のことで私は驚く。
母親が玄関に行った。少し話す声が聞こえると、直後に床がドタドタと揺れる。母親が腰に捕まっているその人物は、大事な人。私の彼氏だった。
父親が「お前は誰だ」と問う姿。
彼氏はそんな父親を睨む。
「あんたが、こうしたのか」と私の方を指差しながら彼氏は言った。父親の返事も待たず、彼氏は父親の左頬に拳を叩きつけた。勢いで倒れこんだ父親は息が荒く、口を開いたまま驚愕して動かない。そうしている間に彼氏は私の手足を拘束しているロープを解いてくれた。
「逃げよう、僕の家に来るんだ」
そう言う彼氏は、私の目には神様に等しい存在と感じられて、どこか頼らせてくれる力があった。
今は何も考えず差し伸べてくれるこの手を取る。私もそろそろ両親という檻から出よう。この手を掴む、彼氏に希望を託して。