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敵は火炎山・煙突寺(ひえんざん・えんとつじ)にアリ!?──『焼肉真宗異聞:万物皆焼』

掲載日:2026/07/01

焼肉には、人を笑顔にする力があります。


そして時々、宗教戦争も起こします。ψ(◡ω◡)ψ←え?


この物語は、しいなここみ様主催「やきにく企画」の火床から生まれました。(いつも企画開催、ありがとうございます!m(_ _)m)


主催者様、参加者の皆様、どうぞご賞味下さい。(*人´﹃`*)<南無焼肉如来。ちょうど四千字ぴったり(笑)


──夜明け前。


「肉を焦がすな! 肉が自分で返りたいと言うまで待て!」

「炭は呼吸している! 扇ぐな!」

「ピーマンを子どもの皿へ勝手に移すな! 食育の押しつけは虐待だ!」

「焼肉は自由意志こそ尊い!」


火炎山(ひえんざん)煙突寺(えんとつじ)の境内では、今日もいつも通り激しい教義論争(やきにく)が始まっていた。


「大僧正さまァァァ!!」


本堂の畳を滑り、小坊主が転げ込んでくる。


「門前に美願(ヴィーガン)精進(プラクティス)宗が十万の軍勢! 完全に寺が囲まれました!」


大僧正(煙突寺第三十八世)は、黙って網の上の肉を裏返した。


「……来たか」


「再び、()()()()が始まるのでしょうか……」


小坊主の表情が、赤に反する色に染まる。


「違う」


大僧正はカルビを一枚、口へ放り込む。


「まだ続いておる」


「え?」


「一千年前、大明神が焼肉如来と精進如来を世に遣わして以来、ずっと終わらぬままじゃ」


「!?……南無焼肉如来……」


ちっぽけな祈りを置き去りに、史上最大の宗教戦争(肉と野菜の論争)は、今日もいつも通り始まった。


全身をオーガニック麻布で包んだ美願(ヴィーガン)精進(プラクティス)宗の狂信者たちを率い、教祖が青汁の詰まった瓢箪ひょうたんを掲げて叫ぶ。


「肉を捨てよ! 大豆を信じよ! 救いは畑にあり!」


対する大僧正は黄金のトングを構え、山門の前に立ちはだかった。


「愚かな。草は牛となり、牛は肉となり、肉は人の血肉となる。そして人は畑を耕す。ゆえに、畑もまた肉である。これぞ『タレ経』の教え!」


両宗派の弟子たち「「「なるほど!」」」


教祖「なるほどじゃない!!」


教祖は額に青筋を立て、大僧正を指差した。


「相変わらずの詭弁を……! 兄よ、お前は忘れたのか! 我らの母が、脂っこいものばかり食べ、母乳を詰まらせて死んだあの日の無念を!」

「黙れ弟よ! ならば、野菜ばかり食べ、力が出ずに大木の下敷きになって死んだ父の無念はどうなる! 肉を、肉をあと一枚食っていれば、父はあの丸太を押し返せていたのだ!」


民衆「「家の不摂生を歴史にするなァ!!」」


泥沼の家庭環境を曝け出しながらも、精進宗の教祖はついに精進如来の化身を顕現させる。


「我らの神よ、降臨せよ! ──豆神・大豆来だいずらい!!」


天が割れ、枝豆色の巨神が降臨する。


脂肪率3%の圧倒的筋骨。


大僧正も負けじと黄金のトングを天に突き上げ、焼肉如来の化身を呼んだ。


「目覚めよ、大日牛来だいにちぎゅうらい!!」


寺院の地底深く……熟成(エイジング・)聖庫(サンクチュアリ)が爆ぜる。


一切の鮮度を失うことなく、長き眠りを旨味へと変えた、体長十五メートルの霜降り神獣(神毛和牛)が咆哮した。


「モォォォォォ!!」


黄金比率のサシから放たれる『極上ハラミのアロマ』だけで、敵兵三百人が「白飯をくれ!」と叫んで卒倒する。


挿絵(By みてみん)


だが、教祖もまた狂気を孕んだ目で笑った。


「その程度、究極健体パーフェクトボディーの前では児戯にも等しい!」


「ダイズゥゥゥ!!」


大豆来が地を揺るがして咆哮した瞬間、因果律が歪み、その場にいた全員のBMI(体脂肪率)が一斉に「22(適正値)」に固定された。


「うおっ、腹が軽い!」

「今までキツかったズボンが、すんなりはける……!」

「くそっ、健康すぎて怒れん!」


真宗の僧たちが動揺する。


脂の快楽か、あるいは絶対的な健康か……。


世界の均衡を揺るがす二大巨神が激突したその時、教祖はゆっくりと前へ出た。


千年使い込まれた翡翠の菜箸を、静かに構える。


大僧正もまた、黄金のトングを静かに構え直した。


巨神の(あらそ)う轟音の中、互いに一礼する。


両宗派の者たちは、一斉に息を呑んだ。


「大僧正……!」「教祖様……!」


炭の爆ぜる音だけが、やけに大きく聞こえた。


教祖が口を開く。


「肉とは執着」


大僧正が口を開く。


「肉とは感謝」


「こ、これは……!」

「伝説に語られる……ぜん問答……いや、ぜい問答!」

「近づくな! あの領域に割って入れば、心が焼かれるぞ!」

「肉を語る者と、肉を悟る者だけが立てる境地……!」


一歩。


「肉とは欲望」


「肉とは命」


一歩。


「肉とは煩悩」


「肉とは供養」


一歩。


二人が同時に踏み込んだ。


黄金のトングと、翡翠の菜箸が火花を散らす。


──キィィィン。


乾いた金属音。


その瞬間、空が裂けた。


その傍ら。


網の隅では、一枚の特上カルビだけが、静かに脂を落とす。


積乱雲が真っ二つに割れ、山頂の巨岩が音もなく崩れ落ちる。


「「な……!?」」


門徒たちは吹き飛び、牛来と大豆来ですら思わず動きを止めた。


「まだ始まったばかりじゃ」


大僧正は静かに笑う。


「肉は強火で焼くものではない」


「何?」


「心を焼くものじゃ」


トングが閃く。


教祖も菜箸を返す。


「愚か者!」

「強火は旨味を逃がす!」

「弱火では待てぬ!」

「待てぬ者に焼肉は任せられぬ!」


再び激突。


今度は炎そのものが巨大な竜となって空へ昇った。


「ならば見るがよい!」


教祖は両手を広げる。


「秘奥義──精進曼荼羅!」


無数の野菜が空を埋める。


椎茸。茄子。人参。玉ねぎ。キャベツ。南瓜(かぼちゃ)


それらが曼荼羅のように回転し、世界を覆った。


「これぞ、天の恵み……」


門徒たちが震えた。


対する大僧正は、静かに目を閉じる。


「秘伝……」


真宗の僧たちが震えた。


「あの技を……!」


大僧正はトングをゆっくりと網へ向ける。


肉を返した。


ジュワァァァァ……


音がした。


──たった、それだけ。


香りが風に乗る。


(美味しく食べてね?)


確かに聴こえた肉の(こえ)


その一音だけで、世界が静まり返る。


「「「肉喰いてー!!!」」」


誰もが喉を鳴らした。


教祖の眉が、ぴくりと震える。


「……この声と香りは」


「百八分」


大僧正は静かに言う。


「低温で待ち続けた者だけが辿り着く、旨味じゃ」


教祖は歯を食いしばる。


「……認めぬ」


「認めれば、お前は負けるからな」


「違う……」


教祖は静かに目を閉じた。


「認めれば……」


「認めれば?」


「……悔しいほど、旨かった昔を思い出すからなのだ……」


大僧正は笑わない。


ただ一度だけ頷く。


「そうじゃな……」


二人は再び構える。


黄金のトング。


翡翠の菜箸。


同時に踏み込んだ。


その瞬間、牛来と大豆来が互いの力を解き放つ。


再び、天が裂ける。


山が砕ける。


世界が夜明けに白く染まる。


そして──。


爆煙の中から現れたのは。


豆に非ず。


肉に非ず。


されど、そのどちらでも有る信力の結晶。


一丁の、『焼き豆腐』であった。


「…………」


誰も喋れなかった。


香ばしく焼き目のついた、しかしどこまでも優しく、大豆の芯まで熱の通った一丁の豆腐。


「その名に豆を添えても……豆でもない……」


教祖が菜箸を落とし、涙を流した。


「その名に肉を添えても……肉でもない……」


大僧正もまた涙を流す。


「「これぞ、第三の道……」」


二人は、焼き豆腐の前に並んで深く合掌し

た。


「「尊い……」」


大日牛来も大豆来も、お互いの健闘を讃えあった。


一千年の聖戦は、肉と野菜の混じり合う、完璧な調和マリアージュをもって終結した。


あちこちで、ひとつの七輪を囲む輪が出来上がっていった。


世界に永遠の平和が訪れた──かに思われた。


その時、一人の小僧が恐る恐る手を挙げた。


「あの……大僧正さま」


「何じゃ」


「これ(焼き豆腐)は……『やきにく』に入りますか?」


……長い、凍りつくような沈黙。


『焼き豆腐は焼き肉か否か』


その問いが、再び世界にひび割れを入れた。


「企画違反じゃねぇかァァァ!!」

「レギュレーションを読めッ!」

「モォォォォォ!!(牛来激怒)」

「ダイズゥゥゥ!!(大豆来参戦)」


神々すら巻き込み、一瞬で大乱闘の火の海と化す煙突寺!


世界が再崩壊へと向かうその瞬間、大僧正は最大出力で絶叫した。


「静まれェェェェエエエエ!!!」


ピタリ、とすべてが止まった。


大僧正は荒い息をつきながら、ゆっくりと天を仰いだ。


「これ以上は、人の智を超えておる。地上の分を超えておる。この問いを裁ける御方は、ただ一柱……」


大日牛来も、大豆来も、教祖も、真宗の僧たちも、静かに頭を垂れる。


誰かが震える声で囁いた。


「大明神様は、俗世では『おから』などの慎ましい食事で、日々過酷な修行をなさっておると聞く……」


「おのれの身を削り、我らに料理を授け給うたのだな……」


「「「尊い……」」」


全員が涙を流した、その時。


天地開闢の如く、激しく震えた。


割れた雲間から、まばゆい光とともに、一枚の巨大な巻物がゆっくりと降りてくる。


そこに、世界のレギュレーションたる黄金の文字が浮かび上がった。


『焼き豆腐は……今回は可とする』


「「「うおおおおおおおおお!!!」」」


割れんばかりの歓喜の声が天地を揺らし、両宗派は抱き合って涙した。


しかし、その巻物に、さらなる文字が追加で浮かび上がった。


『なお、異論は感想欄、活動報告コメント欄にて受け付ける』


「…………」


一瞬の静寂の後、誰かが絶叫した。


「また感想欄が燃えるぞーーー!!」

「審議だ! 審議を要求する!」

「喝ァァァァァ!!(トング投擲)」


一瞬で平和は崩壊。


煙突寺の白煙と、感想欄、活動報告コメント欄の炎上が、同時に天へと激しく舞い上がっていく。


肉も。


豆腐も。


寺も。


感想もコメント欄も。


すべては焼かれ、


すべては燃える。


──これぞ、万物皆焼(みんなかいしょう)


……。


境内には、戦の跡だけが残っていた。


砕けた七輪。


転がるトング。


炭に埋もれた椀。


煤に汚れた小僧は何も言わず、一つひとつ拾い集めていく。


焦げた網を洗い、


散らばった箸を揃え、


ひっくり返った卓を起こす。


あの時と同じ、(祭り)の跡……。


その背中を、大僧正は黙って眺めていた。


網の上では、特上カルビだけが、まだ静かに焼かれている。


強火ではない。


戦火の端で、低い熱を受けながら、ゆっくりと脂を落とし、旨味だけを残していく。


やがて大僧正は、その一枚を網から外した。


皿は一つだけ。


何も言わず、小僧の前へ差し出す。


「……食うか?」


小僧は少し驚いたように顔を上げ、それから静かに頭を下げた。


「……ありがとうございます、大僧正さま」


大僧正は少しだけ眉を上げる。


「昔からワシは、やきにく和尚じゃよ」 


「……はい、やきにく和尚さま!」


二人は向かい合い、同じ網からカルビをつまむ。


言葉はない。


夜明けの煙だけが、どこまでも真っ直ぐ空へ昇っていった。


今日もまた、万物は焼かれ、命は引き継がれる。


──南無焼肉陀仏。(≧人≦)<ご馳走様でした!


(完)

この物語の火は、しいなここみ様が温かく囲んでくださった「やきにく企画」の火床(やきにく和尚という存在)から、ありがたくお借りいたしました。m(_ _)m


きっと今日も、香ばしい肉の煙とともに、野菜も、豆腐も、もちろん肉も、それぞれのこだわりが詰まった最高の一品たちが美味しく焼き上がっていることでしょう。


主催のしいなここみ様、そしてこの熱い企画を共に盛り上げる参加者の皆様へ、心からの敬意と感謝を込めて。


ごちそうさまでした。

南無焼肉陀仏。 (≧人≦)<万物解焼!←こらマテ


壁|;^ω^)<なお、「焼き豆腐は焼き肉に含まれるか」につきましては、現在審議中です。どうなんでしょうか?←え?

異論は感想欄にて受け付けます。←ええと?

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― 新着の感想 ―
 読了しました。  中身が。  中身が。  中身がないような気がするのに、なぜこんなにも読後感が深いのでしょう。カルビから落ちた油のせいでしょうか。  いや、挿絵のせいかも知れない。  因みに、…
焼肉だけに、下手すりゃ炎上しかねんなこりゃ(ォィ ちなみに私は肉と野菜を両方ちゃんと食べたいです。 え、焼き豆腐? それはそれで別で食べたいですね。
なんて壮大なスケールのやきにく……! そして豆腐は…… まぁ、やきにく和尚が許すなら、仕方ないかぁ…… カルビも美味しそうだしねっ(*´艸`*)
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