09(sideジュリアン)
隣に眠る可愛い人は、柔らかな朝日に照らされ神秘的な美しさを纏っている。
ようやく、ようやく手に入れた。
「エリシア……」
眠る彼女の頬にキスをして、愛らしい寝顔を眺める。
エリシアに逃げられたあの日から、社交シーズンの終了までの数か月どこかで捕まえるチャンスはあるだろうと思っていたが、第一王子とセレナ様が結託し、エークフェルト家まで絡んでしまえば私の力ではどうにもならなかった。
彼女を鎖で繋ぐ前に手の届かない場所へ飛び立たせてしまう失態を犯すとは、我ながら呆れてしまう。
手元に戻そうとシーズン中の警備にエリシアを加えたいと申し出ても却下され、八方ふさがりだった。
シーズン中はシーズン中で私も忙しく、彼女を追いかける事ができず、とうとう最終日になってしまった。
パーティーの最中、エークフェルト家の令息と睦まじげに話しているのを目撃し、かなりの数の令息達に声をかけられている姿に、なりふり構わずエリシアを奪おうとする体を押し留め任務を全うした。
パーティーも終わりに差し掛かり、王族の方々も引き上げた所でエリシアと話をするべく姿を探すと、庭園のベンチにぽつんと座っていた。
少し見ない間に随分と美しくなっており、その姿を隠すように思わず上着をかけてしまった。
自身の内に巣食う激情を抑えつけながら、エリシアの話を聞く。
私への恋心を捨てるなんて言葉を聞いた時には、その口を塞いでしまおうかと思ったが、なんとか耐え、彼女からの恋心を受け取って欲しいという言葉を引き出せた事に歓喜した。
正直、自室に連れ去ってしまいたかったが、紳士的にキスをすることが精一杯だった。
それ以上口にし、行動してしまえば、あの激情は抑える事ができなかっただろう。
照れくさそうに、でも幸せそうに笑ったエリシアの破壊力はすさまじかった。
交際が始まった後も、とてつもない破壊力を持ってエリシアは私を翻弄した。
職務中は上司と部下という一線を絶対に越えては来ない、私が少しでも越えようものなら機嫌を悪くし、数日は冷たい態度を取られる。
けれど、職務を離れれば素直に己の気持ちを口にする。それは私を賛辞する言葉から始まり、好きだ、愛しているなどためらいもなく好意を口にしてくる。
「エリシア、あなたが素直なのは承知していますが、これは些か……」
「お嫌ですか?」
「嫌ではありません、決して!」
「では受け入れてくださると嬉しいです。隠すから大変なのだと姫様に指摘されましたし、口にすると心が軽くなるので」
「そう、ですか……」
ニコニコと楽しそうにしているエリシアに何も言えず、私は毎日彼女の好意を受け止めていた。ちなみに、私はこの時はまだエリシアと同じように頻繁に好意を口にはできていなかった。
口にしたが最後、閉じ込めて離さない自信があったからだ。
日に日に大きくなる気持ちを封じ込める事は難しく、両親にエリシアを紹介し、エークフェルト家にも訪問し、彼女の生家にも挨拶に行った。
そして、この気持ちを不用意に解き放たぬように特別な指輪を用意することにした。
「……若草色の宝石ならまだわかるのだけど」
「私が欲しいのは魔石です」
「どう説明するんだい、エリシアに」
「そのままを話します、あなたを”守る物”だと」
「あー、うん、そうだね。お前は、そういう奴だね。とりあえずツテはあたってみるよ」
「ありがとうございます」
第一王子に無理を言って手に入れた魔石を使った指輪を用意し、外堀を埋めてからのプロポーズは我ながら必死だったとは思うが、エリシアが喜んでくれたので全てが報われた。
そうして、ようやく昨夜初夜を迎えたのだ。
「ん、ジュリアン様……?」
「おはようございます、エリシア。体は平気ですか?」
「違和感はありますが、その……」
顔を赤くし、シーツで顔を隠すしぐさが愛らしく、その額にキスをする。
「私の奥さんは恥ずかしがり屋ですね?普段は熱烈に愛を囁いてくださるのに」
「だって、あれは……!!」
「全て本心ですよ。ずっと口にしたくてもできなかっただけです」
頬、鼻、瞼とキスを落とし、最後に唇にキスをする。
「愛していますよ、私のエリシア。不安を抱えながらも自由に羽ばたくあなたを傍でずっと守り、愛させてくださいね」
彼女に嵌められている指輪を撫で微笑む。
無理を言って作らせたこの指輪にどんな仕掛けがあるとも知らずにただ幸せに笑っていてください。
その仕掛けを知る時、あなたはきっと後悔するでしょうから。どうか知らないままでいてくださいね。
End
お付き合いありがとうございました。
少しでも楽しんでいただけましたら幸いです。




