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08

近衛騎士の基礎を私に教えてくれたのは間違いなくジュリアン様だ。そのころは親切心というよりは、自身が守るべき第二王子の周りに私のような者がいては邪魔になるからと理由が大半を占めていただろう。

事実、私は護衛をするという意味を真に理解はしていなかった。

ジュリアン様に教え導かれ、近衛騎士として成長した私はジュリアン様に憧れた。

私も姫様の騎士として彼のようになりたいと目標にしてきた。うまく行かない事も多くあったけれど、困ったときはそっと手を差し伸べてくれるジュリアン様が好きだった。

あの時は敬愛だと思っていたけれど、今になって思えばあの気持ちは恋の始まりだったのだろう。


私はジュリアン様が好きだ。彼が私に同じ気持ちを向けてくれていたら、とも思う。

でも、自信が無いのだ。

彼は完璧な騎士で、隊長という肩書に相応しい実力もあるし、私にも騎士として相応の事を求める。

私はあまり器用ではないから、エークフェルト家の娘として、姫様の騎士として過ごすことに手一杯で、ジュリアン様に恋する私というものが入る余地がない。

だからこの恋を封印しようと思ったのだ。どれか一つを捨てるとしたら、誰にも迷惑をかけないこの心だけだから。


でも……。



「冷えますよ」


いつかと同じようにそっと上着をかけてくれたその人。

その声に導かれるように顔を上げれば、彼が優しく微笑んでいた。


「ジュリアン、様……」

「少し話をしませんか」

「……はい」


こぶし一つ分を空けて隣に座ったジュリアン様は、困ったように笑う。


「正直、ここまでの期間、逃げられるとは思っていませんでした」

「気持ちを整理しようと思っていたので、様々な方にわがままを言ってしまいました」

「気持ちの整理、ですか」

「……あなたに持ってしまった恋心をどうやったら封印できるかと考えていました」


さぁっと風が吹き抜け、私とジュリアン様の髪を揺らす。

驚きに見開かれたジュリアン様の瞳を見つめ、微笑む。


「私は器用ではありません、余裕のない今の私がどれか一つを捨てるならあなたへの恋心だと思っていました」

「……それで?」

「心を殺すことは難しいですね。あなたに見つめられると、捨てる事ができなくなる」


どんなに捨てようと決心しても、ジュリアン様を思い出せば手放すことなんてできなくて、だからどんな結果になってもいいから言葉を紡ごうと覚悟したのだ。


「ジュリアン様、私はずっとずっとあなたに恋をしていました。自覚したのは最近ですし、仕事にも支障が出ました。逃げるという選択もしました。それでも捨てられなかったこの心を受け取ってくださいませんか?……あなたが好きです、ジュリアン様」



まっすぐに彼を見つめ、ただ私は返事を待った。

何かを言おうとしては口を閉じるジュリアン様は、一つ息を吐いて言葉を紡いだ。


「……きっとあなたは後悔しますよ」

「後悔、ですか?」

「あなたが思っているほど私は美しい人間ではありません」


そっと頬に伸ばされた手を受け入れ、撫でられるがままに大人しくする。


「あなたは私を選んでしまった。自由に羽ばたくのは許しましょう、けれどそのか細い足には私へと続く鎖が繋がれている。戻る場所は私の所だけなのですから。残念な事に私は美しい恋を持ち合わせていないのです」


仄暗い空気を纏ったジュリアン様から本能的に距離を取ろうとする私を捕まえ、言葉とは裏腹な優しいキスをする彼に恐怖は霧散し、歓喜が私の体を包んだ。


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