07(sideセレナ)
私の大事な騎士は、相も変わらず困難に立ち向かい自分の居場所を作ってしまう。
幼馴染として、育ってきた私たちが騎士と姫となったのは随分と昔のことだ。
私が姫に仕える騎士に憧れ、エリシアと騎士ごっこをしていたのが始まり。
その後、本当に努力して剣術も魔法も習得してしまうとは思わなかったけれど、当時の私は大事な幼馴染とずっと一緒にいられることが嬉しかった。
女性が騎士になること、幼い子供が私を守ることに異議を唱える者は多くいた。けれど、それを黙らせるかのようにエリシアは黙々と努力を続け、その実力で周りを認めさせていった。
貴族学校に通う頃には名実ともにエリシアは私の騎士で、大切な宝物になっていた。
「二人きりになれないものだろうか……」
今は夫である、マティアス様との仲を深められたのはエリシアのおかげだ。
護衛は常にいるもので、その視線を気にする事はほとんどないのだけど、恋する相手と二人きりになりたいというのは切実な願いだった。
そこに助け舟を出してくれたのがエリシアだ。
護衛の目から自分たちを隠し、音が漏れない結界を作り出してくれた。
マティアス様側の護衛には難色を示されたが、エリシアがなんとか説得してくれて私たちの願いは叶った。
頻繁にその状況を作ることは出来なかったが、それでも月に数回は二人きりになる時間があって、私たちは仲を深めることができたのだ。
そんな私の願いを一生懸命叶えてくれるエリシアは、母国の全てを捨てて私についてきてくれた。その忠義に報いるために、大切な宝物であるエリシアが困らないように私は第二王子妃としての地盤固めに奔走し、異物として排除されそうなエリシアを庇護下に置ける目途が立っていた。
けれど、エリシアはそれよりも前にこの国の貴族達から信頼を得ていた。
元来彼女は優しく、素直で、自分の周囲にいる人は全て自分より優れていると思っているため、多くの人に好かれるタイプではある。
様々な所に派遣されていたからか、貴族出身の騎士や護衛対象であった令嬢や令息、貴族の当主など様々な人がエリシアの働きぶりに感心したり、助けられていたりした。
「ねぇ、エリシア」
「はい」
「私、とっても頑張ったのよ?あなたが安心して私の騎士でいられるように、本当に頑張ったの」
「はい、存じております」
「はい、存じております、じゃないのよ!自分で居場所を作ってしまってるじゃない!!」
「居場所といいますか、姫様をお守りするのに必要な人脈を作ったまでです」
なんて事のないように言うけれど、何も持たない外国人である彼女が貴族に人脈を作るというのは並大抵の事ではない。
ヴァルベルグ近衛隊長の支援やエリシアの人柄があったとしても、運も必要だ。
その最たるものがエークフェルト家との繋がりと、お義兄様に気に入られた事だろう。
エークフェルト家は、この国で圧倒的な力を持っているわけではない。
けれど、エークフェルト家がどこかの派閥に属すると勢力図が塗り替わる程度には人脈や資金がある。
今は中立を保っており、王家ともつかず離れずの距離で国を支えている伯爵家だが、この家の怒りを買うというのは王家であっても避けたい家である。
そんな所にエリシアは養子入りすることになった。
お義兄様の命で成された事だが、エークフェルト家も二つ返事で了承した。
それはエリシアが名実共にこの国に受け入れられた証拠だ。
私が何かしなくても、与えられた場所で真面目にコツコツと任務をこなし、その運で自らの地位を固めてしまったのだから大したものだと思う。
「あのね、エリシア。私のわがままでついてきてもらったのだから、そんなに頑張らなくてよかったのよ?私の面目が立たないじゃない」
「姫様をお守りするのに全力を尽くさないなんてありえません」
「まぁ、そうね。あなたならそういうわね……」
何をバカなことを言っているんだ?という訝し気な視線を受け止めて、自分を落ち着けるために紅茶を一口飲む。
この国に来た当初はこの強い香りの紅茶に慣れなかったが、今では大事なティータイムのお茶となっている。
「そろそろ本題に入るわね」
「はい。なんでしょう?」
「ヴァルベルグ近衛隊長からあなたを近衛騎士として、社交シーズンの警備に組み込みたいと要請があったわ」
「っ……」
エリシアの反応を見て、やっぱり何かあったのだなと思う。
私の騎士としての復帰が早まった事に何かしらあったのではないかと思い、マティアス様に聞いたところお義兄様とエークフェルト家の申し出であると伝えられ首をかしげていたのだ。
「聞かせてくれるわね?何があったか」
「……はい」
そうしてエリシアは涙をこぼしながら、ヴァルベルグ近衛隊長への恋心を語った。
騎士である自分がこの気持ちに囚われて職務を遂行できなくなることを恐れ、気持ちを封じられるまで私の元にいたいとエークフェルト家に願ったと。
「バカね、泣くほどのことではないでしょう?」
「私は姫様の騎士です。このような腑抜けた状態で職務を遂行できるわけがありません」
「真面目ねぇ……」
未だにポロポロと泣いているエリシアを抱きしめよしよしと宥め、警備の件は断ることにすると伝えた。
だが、せっかく芽吹いた恋心を封じるというのは判断ミスだ。ヴァルベルグ近衛隊長もエリシアのことをそういう対象としてみているのだ、ハッピーエンドで終わってくれなければ私が安心できない。
「エリシア、その恋心は悪いことではないわ」
「判断を鈍らせる心などいりません」
「最後まで話を聞いてほしいわ」
「……はい」
「仕事の事を抜きにして、その心に気が付いたときに少し世界の見え方が変わったのではない?」
「世界の見え方……」
「そうねぇ、例えば道端に咲いている普段は気にも留め無かった小さな花が美しいと思ったり、その美しさに彼のことを思い浮かべたり、とか」
「……昼食にいただいたサンドイッチが美味しくて、ジュリアン様に食べていただきたいと思ったり、とか?」
「そう、そういう些細な事でいつもより幸せがあったりする。それってとても素敵な事ではない?」
「そうでしょうか」
「心が豊かになるのよ、恋をするということは。もちろん、幸せな事ばかりではなくて、仕事に支障が出てしまうということもあるけれど」
「仕事ができないというのは私にとって悪いことです」
「恋心を受け入れられないから、悪いこととして逃げているだけではないの?」
「それは……」
うつむいてしまったエリシアの頭を撫でて、幸せになって欲しいのだと告げる。
私を全身全霊で守ってくれるのは嬉しいけれど、大事な大事な私の騎士には世界一幸せになって欲しい。
「ねぇ、エリシア。あなたは誰かに守られてもいいのよ。あなたが弱いということではなくて、隣で自分を愛し、支えてくれる人がいてもいいということよ」
「私は皆に支えられています。今も、私は姫様にこうして支えていただいています」
「ううん、そうじゃなくて。女性として、愛し愛され、甘えていいの。エリシアは私の大切な騎士だけれど、とっても可愛い女の子なんだから。ね?」
エリシアの人生の大半は騎士としてのものだ。私のために生きてきたと言ってもいいぐらいに、私第一で生きてきた。
正直、私のわがままでここまでにさせてしまったことに罪悪感もある。だからこそ、エリシアを愛し、エリシアを一番に考える方と幸せになってほしい。
それをエリシアがすぐに理解できるかは分からないけれど、考えるきっかけは作れたと思うから今はただその心を優しく見守るだけだ。




