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05(sideジュリアン)

「逃げられた、か……」



ため息をつきながら椅子の背もたれに体を預ける。

性急すぎた自覚はある。自身の庇護者だと思っていた男から、異性としての雰囲気を嗅ぎ取れば逃げるのも頷ける。

素直ではあるが、自身に処理できないと判断すれば退くというのは守る側の人間として正しい行動だ。


今回の件も、一人で対処できると認識していたのだろう。

第一王子から聞いた話だが、パーティー会場から出る時も何も言わずついてきたそうだ。出ていく姿を目撃していたが、すぐに連れ戻すと思っていた私の認識が甘かった。


しかも、第一王子に防御魔法を何重にもかけ、周囲には気配探知の結界を張っていたというのだから王子の意思を尊重し、護衛することを当たり前だとエリシアは思っていたのだ。

そこは私の教育不足ではあったので、王子に謝罪したが自由があっていいと逆に気に入られてしまい、処分も始末書で済ませるようにと厳命されてしまった。


「ジュリアン、エリシアが王族警護につけない理由は地位だけかい?目の敵にする貴族はほとんどいなかった印象だけれど?むしろ随分と声をかけられていて、微笑ましかったよ」

「……」

「お前、エリシアに与える情報を操作し、目の届く範囲に置こうとしているね?」

「彼女は素直過ぎます、悪意を持った人間に近寄られてはひとたまりもない。それこそ御身を危険にさらす可能性が高いのです」

「それは嘘。素直なのはそうだろうけれど、護衛対象を危険に晒す事はありえないよ。でなければ、第二王子妃・セレナの騎士として彼女はここにはいない」

「……」

「過保護、いや、違うか。君のそれは愛しい者をほかに取られまいとする独占欲だ。近衛隊長とあろうものが公私混同するとはねぇ」


からかうような声音の言葉に否定も肯定も返さず、今後彼女をどうするつもりかと問う。


「最近、立て続けにエリシアに救われた家があるだろう?エークフェルト家だ。あの家はちょうどいい。善良で、中立、そしてなによりエリシアの後ろ盾になる力も金も人脈もある。養子にするか、嫁入りにするかは考えている所……。あぁ、わかったよ、養子で話を進めよう。その後、息子と懇意になっても俺の知るところではないけれどね」


私の無意識の殺気に肩をすくめた第一王子は、エリシアの実家とも調整が必要だが最速で話を進めるのでそのつもりでいるようにと口にする。


「エリシアはまだこちらに来て数か月です、些か性急ではありませんか?」

「あの稀有な能力を早々に王族のモノにする方が先決だろう?彼女自身の人格に問題はないし、怪しい動きもない。急ぐ事によるデメリットの方が小さいと分かっていてそれを言うのかい、ジュリアン・ヴァルベルグ近衛隊長?」

「っ……」

「これは決定事項だ。覆すことはできない。そして、この事は直接弟からエリシアに伝える。君は一切口を挟まないように。以上だよ」


第一王子の前から辞し、近衛の建屋に戻る途中聞こえてきた噂話。

エークフェルト伯爵令息が、あのエリシアを食事に誘ったというものだ。

どろりとした黒いものが胸の奥底でうごめき、飛び出しそうになるそれをなんとかやり過ごす。



そして、諸々の処理を終えて戻ってきたエリシアに、抑えきれなかったものをぶつけ逃げられてしまったのだ、これはもう自業自得としか言いようがない。


私の庇護下にいたのに、どんどんと行動範囲を広げ、人脈を広げついには第一王子に気に入られた。

元々、第二王子にも気に入られている彼女だ、遅かれ早かれこうなることは分かっていたのに、その時が来なければいいとずっと願っていた。

公私混同をしてまで自身の庇護下に縛り付けていたにもかかわらず、彼女はするりと私の檻から抜け出し、飛び立ってしまった。


「どうして私のモノでいてくれないのだろうね……」


全てのモノから守る力も地位もある。ただ、私の傍で笑っていて欲しい。

そう願えば願うほどに彼女は自分の居場所を見つけ、遠ざかっていく。

出国前の自信を無くした姿が嘘のように生き生きとし、大事なお姫様を守るための力を着々とつけている。

そして、私以外の男と懇意に……。

ダメだ、そんなことは許せない。


私以外の男を頼るなどあってはならない、彼女が頼り、彼女を助けられるのは私だけだ。

君は私の目の届き、私の守れる範囲にいなくてはならないんだよ、エリシア。


「いっそのこと鎖でつないでしまおうか……」


どろりと蠢く黒い感情に目をつむり、目の前の書類に手を伸ばした。



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