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04

お茶会から数日、なんとか己を立て直して、今日も今日とて任務についていた。

ただ、今日はジュリアン様と同じ現場なので少々緊張はしていたが、頭を切り替える。


この国で私の近衛騎士としての信用はゼロに等しい。私の主であるセレナ様が連れてきたというだけの女を信用する方が無理だろう。

セレナ様は私をずっと傍に置くことを考えていたようだけれど、外国人という事でスパイなどの疑いの目で見られている事を分かっていたため、しばらくの間はジュリアン様の采配に従って働くこととなった。

そしてジュリアン様は私に向けられている疑いの目を少なくするために、近衛ではなく騎士としての仕事を与えることが多かったのだが、この日は久しぶりに近衛騎士としての第一王子の護衛任務を行う事になった。

とはいえ、後ろに控える事はしないと思っていたのだけれど……。


「見栄えがいい方がいいから、エリシアちゃんに身辺警護を任せるよ」

「それは光栄なのですが、その……」

「実力は確かだと聞いているけど?」


おろおろとジュリアン様を見ると、一つため息をついて「殿下のお心のままに」と答えていて、私は「命をかけてお守りします」と言うしかなかった。


「君はさ、一気に王族の身辺警護という栄誉を得たいと思わなかったのかい?」


パーティーの最中、人に酔ったと言った第一王子は廊下にでて宛もなく歩いている。それに私は当然ついていくことになる。

姫様もよくパーティーを抜け出していたので、こういった事は私の中では珍しくない。出来得る限りのことをして、第一王子をお守りするだけだ。


「物事には順序があります。急な変化は無用な反発を産みますし、何より私は第二王子妃が連れてきた外国人で、この国での身分はありません。そんな者を信用できると言う人間は逆に信用できないと思いませんか?」

「それもそうだね」

「それに、あの方をお守りするには力が足りない。その力をつけるための期間だと思えば苦にはなりません」

「権力が欲しいならあげようか?」

「ご冗談を」

「本気だよ。正直、俺がこうしてフラフラしようとすると大抵の騎士は止めるんだ。けど、君は止めなかったし、ジュリアンも容認した。それって君の実力と信用が無ければ出来ない事だろう?君に足りないのは権力だ。それを俺は与えてあげられる。どこの家でも選びたい放題だ」


そんな時、遠くで小さなうめき声が聞こえた気がして、シッと人差し指で自身の唇を抑え静かにするようにジェスチャーする。

ひとつ頷いた第一王子は私の様子をじっと見ている。


「た、……け……」


小さく聞こえてくる助けを求める声に一瞬迷ったが、第一王子が頷いたのを見て剣を抜き、声のする方向へと第一王子とともに歩みを進める。

声の聞こえてくる部屋の扉を蹴破るとそこにあったのは、半裸の令嬢が男性に馬乗りになっている光景だった。


「何をしているのですか!?」

「キャ!」


逃げようとする令嬢に拘束魔法をかけ、男性に近づくと顔が真っ赤になっており、呼吸も荒い。


「……媚薬だね」


様子を眺めていた第一王子がそう助言してくれたので、すぐさま浄化魔法をかける。媚薬というのは私の中で毒に分類される。セレナ様を守るため、毒を浄化する魔法を習得していたし鍛錬も欠かしていない。

繊細な操作が必要になる魔法だが、私ならできると自分を励まして彼に浄化魔法をかけ、問題なく浄化を成功させた。


「へぇ、君って浄化魔法も使えるんだ。なるほどねぇ……」

「私の魔法のことは後でご説明いたしますので、申し訳ありませんが私にお付き合いいただけませんか?」

「構わないよ」


大声を出し、人を呼んで警備の騎士に来てもらい事のあらましを説明する。騎士にすぐに戻ることを伝え、第一王子をジュリアン様の元へと送り届ける。


「エリシアちゃん」

「はい」

「やっぱり君に権力を与えてあげるよ。すぐに用意してあげるから、待っていてね」

「なぜこの流れで……?」

「治癒に浄化。王族にとって一番必要な力だと思わないかい?ねぇ、ジュリアン」

「治癒は存じていましたが、浄化とは?」

「この子、毒を浄化できるんだよ。すごいだろう?近衛として王族の傍に置くべきだよ。権力が足りないというなら相応のモノを与えるだけだ。今夜、恩を売れただろうしね」


恩とは?と思ったが、戻ってみれば被害にあった男性はエドヴィン・エークフェルトと名乗り、なんとフレイヤ様のお兄様だった。


「妹に続き、俺まで助けて頂けるとは……。本当になんと礼を言ったらいいか……」

「いえ、騎士の務めですから。それにしても、その……」

「言いたいことは分かる。この顔のおかげでうちは異性関係のトラブルが多くてな……」


それになんとも言えず、黙るしかなかった。

本当に兄妹揃って華やかで綺麗な顔をされているのだ。

伯爵家という高位貴族であり、性格も良く、お金持ちでもある。そんなご兄妹なら恋人や婚約者がいてもおかしくはないのだが、未だそういった方もおらずトラブルに巻き込まれてしまうのだろう。


「ちなみに、あなたから見て俺の顔はどうだろうか?」

「えっと?」

「好みか?」

「華やかでお綺麗だと……」

「嫌いでないのであれば、お礼もかねて今度食事でもどうだろうか?」


お礼をされるほどの事ではないからと断ったものの、どうしてもと押し切られてしまい食事に行くことになってしまった。


一通りの調査協力が終わり、近衛の職場に戻ればジュリアン様からお叱りを受けた。

それは当然だろう、近衛として第一王子を危険にさらす可能性があったのだ。

王族は何よりも優先させなければならない。


「あなた一人でどうにかできる相手だったからよかったものの、もしそうでなかった場合どうなるか想像が出来ないほど愚かではないでしょう?」

「はい」

「殿下の温情で今回の処分は始末書のみとなりました。今後、このようなことは起こさないように」

「はい、寛大な処分に感謝いたします」


一つため息をついたジュリアン様は私を探るように見る。そんな風に見られてしまうと、その場を去ろうにも去れないので大人しくその視線を受け止めていた。


「エークフェルト家の令息と食事に行くのですか?」

「はい。どうしてもという事でしたので」



なぜそれを知っているのだろうかと首を傾げたが、なぜかピリピリとした空気を纏っている彼にそんなことを聞ける勇気はなかった。



「では、私がどうしてもあなたと食事に行きたいと言ったら?」

「私でなくてもジュリアン様には食事に行く女性の一人や二人いらっしゃるのでは?」

「私はあなたがいいのですよ、エリシア」



そう言ったジュリアン様の雰囲気がいつもと違い、なぜかドレスの件を思い出してしまい私は思わずその場から逃げ出していた。


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