あるおじさんの日曜日
日曜日。
朝の九時。
目覚ましのアラームを止めるところから一日が始まる。
「おはよう」
別に返答が来る訳でもないが、朝の挨拶を呟く。
同居人は誰もいないのだから当たり前だ。
寝ぼけ眼を擦り、その指でスマートフォンをいじる。
SNS、ソーシャルゲーム、メール。
確認と消化をするだけの習慣。
お世辞にも有意義とは言えない時間だが、やっているとこれに慣れてしまうものだ。
ある程度意識が覚醒し、時計に目を向ける。
九時三十分。
「いい加減動くか……」
三十分という時間の消費は、成人男性を動かす決意をさせるには十分すぎるようだ。
先ほどまで一切機能させることのなかった足を使い、冷蔵庫に向かう。
今日の胃袋に入る食材一号を求めてそのドアを開ける。
すると、目立つ位置にショートケーキとカフェオレが置いてあった。
ケーキと言っても豪華なものではなく、昨日コンビニで買ったスイーツだ。
「これでいいか……」
ケーキとカフェオレのコンビをテーブルに運び、食事の準備を整える。
人によってはおやつにしか見えないだろうが、今の私にとってはこれが朝ごはんだ。
今の私は例話のマリーアントワネットと言えるだろう。
いや、言えないか。
一人で脳内漫才を繰り広げながら、甘味を口に放り込む。
やはりケーキはいつどんな時に食べても美味しい。
そして生クリームに満たされた口内に、良く冷えたカフェオレを流し込む。
数口食べて一飲み、また数口食べては一飲み……。
私みたいな庶民にとってはなかなかに幸福度の高いループだ。
そんなループの末、ご機嫌な朝食はあっという間に終わりを迎えた。
「ごちそうさまでした」
いただきますは言い忘れたが、ごちそうさまは言ったのでセーフである。
後片付けをしていると、スマホの通知音が鳴った。
何事かと画面を見てみると、家族ラインの通知。
兄家族の姪が自転車に乗れるようになったという報告だった。
めでたい事である。
私なんぞここ数年成長したでもないのに……なんてネガティブになる事は無い。
なることは多かったが、これまた悲しい事に慣れてしまったのである。
……いややはり凹む。
未来の明るい子と比べると、三十路のおじさんの将来というのはまぁ仄暗い。
「うん、散歩行こう」
こういう時は日課の散歩に限る。
無心で外を歩いているだけでも、頭の中がすっきりするものだ。
そうと決まれば善は急げだ。
身だしなみを整え荷物をまとめ、玄関のドアを開ける。
「いってきます」
時計の針は十時を指していた。
いざ外に出たが、どこに行ったものか。
とりあえず通勤する時の道……とは逆の道に進むことにした。
少し歩いたところに駄菓子屋が……あるのだが、張り紙が貼ってある。
どうやら今月中にはお店を畳むらしい。
「あそこのおじいさん、いい歳してたしなぁ」
別に通ってた訳では無いが……いざ無くなるとなるとノスタルジックな気持ちになるものだ。
そんな気持ちも程々にして、歩を進める。
数分歩く。
すると、見慣れたデパートに到着した。
そういえば最近発売したゲーム機は売っているだろうか?
いや抽選販売のみだとネットでは言われてたし流石に無いか。
薄い期待を胸に、家電量販店に入った。
何歳になってもゲームを買う瞬間というのは楽しみなものだ。
ゲーム売り場をちょっと散策していると、お目当てのゲーム機の名前を見つけた。
売っているのかと期待をしたが、この一文で簡単に打ち砕かれた。
"抽選販売のみとなっています。ご了承ください。"
……それはそうか。
ついでに他のゲームでも見るかとも思ったが、そこまで欲しいゲームも無いので店を出ることにした。
デパートを後にして再び歩き始める。
当たり前の事だが、道中に特別何かがある訳では無い。
この世はファンタジーでは無いのだ。
道端に薬草なんてものはない、あるのはシケモクだけだ。
きったな。
まぁタバコも広義的には薬草と言えなくもないのだろうが、汚い。
そもそも吸わない人からしたら薬草でもなんでもない。
踏まぬように歩いていると、工事現場に着いた。
この先に進もうと思えば進めるが、回り道するほどこの散歩に熱意は無い。
「そろそろ帰るか」
時計を見てないから時間は分からないが、結構時間は経っているだろう。
そう納得をしてUターンで帰宅することにした。
吐き捨てられたガムとシケモクが跋扈する道を進み、家に辿り着く。
特にドラマも無いが、散歩する前よりは気持ちはすっきりした。
散歩だからいいのか、適度な運動として歩いたからいいのか。
……そんな事はどっちでもいいか。
散歩の途中でやってみたいことを思いついたので、さっそく実行するのだ。
何をするか……と言ったら小説の執筆だ。
ファンタジー要素モリモリ……なんてものは書けないが、日記もかねて私のちょっとした日常風景を書いてみたいと思った次第である。
需要の有無?
くさやでさえも好む人が居るのだ。
もしかしたら冴えないおじさんの日常風景を見て笑顔になる人もいるかもしれない。
そんな考えを抱きながらパソコンを立ち上げる。
さて、やってみますか。
======================
最後まで読んで頂きありがとうございました。
初投稿で拙い所もあるかもしれませんが、いかがだったでしょうか?
もしよろしければ、感想等いただけたら幸いです。