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彼女の∞と私の零と  作者: イニシ
第六章:遷進世界

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095話:勇者って私が付けてあげました

ガルツ国の民は、とても頑強で筋肉もよく鍛えられていた。


ただ、それはトール国の民も同じだけど。

違いがはっきりわかるのは――顔の髭だった。


年を重ねるほど、顔の肌が見えなくなるくらいに、

髭を生やしているのが特徴だった。

あとは、私よりちょっと背が高いくらい。

他国の民族全体では、むしろ小柄なほうだと思う。


彼らは獣種を飼い慣らすのが得意で、

乗用にしたり、革を使って衣類を作ったりしていた。

とても辺境に適した文化を築いていた。


「俺はナガノル。お前たちはどこの国の者だ!」


前に出てきたその人が、どうやらリーダーらしい。


見た感じ、他の隊員たちもそうだけど、

髭はそこまで長くなくて、比較的若そうだった。


「俺はユキノキ国のロテュ。この辺境には、

植物種を倒す力が眠ってるはず。それを見つけに来た!」


ロテュは、まっすぐな目で、大きな声でそう言った。


……誰も、反応しなかった。


それはそう。理解できた人なんて、私も含めて――たぶんひとりもいないはず。


このガルツ国の人たちと、知り合いじゃなくてよかったかも。


もし知ってる顔がいたら、

この状況について説明を求められてたかもしれないし。


なにより……お母さまに、こんな場所にいるって知られたら、困るよ。


なるべく早く、別れたいなって思った。


「何を言ってるのか知らんが、

お前たちなんか、あっという間に死ぬぞ。帰れ!」


……わかってますそれは……


ナガノルの言葉は荒っぽかったけど――大人としては、まっとうだった。


だけど、まともじゃなかったのはロテュのほうだった。


今にも飛びかかる勢いで、さっきの獣種との戦いのことを、

「お前らが来なくてもすぐ倒してた」って言い出す始末だった。


助けられたなんて意識は、まるでなかった。


そのあとも、ロテュは好き放題。


「こっちのやり方に口出すなよ」

「あんな獣、俺たちだけで充分だった」


平気でバカにするようなことを言い続けていた。


普通なら一悶着ありそうなところだけど――

ナガノルたちは、取り合おうともしなかった。


あきれたように、ちらっと私たちを見てから、くるりと背を向けた。


そのまま、部隊全体が動き出した。


争う価値もない――って判断されたんだと思う。


……正直、それだけでも助かった。


「ちぇ、なんだよ……体が動けば、やってたのに……」


――それ、強がってるだけじゃないかな?

いや、たぶんヴェルシーが魔法で動けないようにしてくれてたんだと思う。


「レラも気にするなよ?俺がすごいモノ見つけて、世界を守ってみせるからな」


はぁ……ロテュ、やっぱりレラには優しいんだね。


それに、“世界を守る”とか……ほんと、勇者みたいなこと言ってるよね。


「勇者みたいだね」


思わず、口からこぼれてしまった。なんで言っちゃったんだろう?


「勇者? なにそれ。いい響きだね。

俺、これからそう名乗ろうかな。“勇者ロテュ”って!」


「うん、とても似合ってるよ、ロテュ……“勇者ロテュ”」


レラも、なぜかすごく嬉しそうに笑っていた。


「瑠る璃はなにもできないけど、いろいろ知ってるんだよな~」


ロテュも、レラに向かって満足そうに笑っていた。


私は何も言わずに、またふたりから少し距離を取った。


そのとき、ヴェルシーがひょいっと現れて、話しかけてきた。


「よかったよ。これで、

もしあの人たちと争っていたら、僕は帰ろうと思ってたからね」


それを聞いて、私は思わず笑ってしまった。

くすくす――と。私見られたら変に思われそう。


「ほんと、トキノ先生が“勇者を探してきなさい”なんて言うから、

ロテュにこんな目にあわされてるんだよね。他にもいればいいのに……」


「いるよ! 他にもいるみたいだよ、“勇者”って」


「えええっ!」


「ただ、ここの世界じゃないみたい。

僕の宿題本には“他の世界からやってくる勇者を探せ”とか書いてたし、

もしかしたら勇者くんは、この世界だけじゃなくて、

僕たちみたいに他世界へ行く時があるのかもね」


そうか……ほんと、“勇者”っていう職業は不思議だね。


そう考えたら、まだロテュたちについて行く元気が出てきた。


「僕はさ、夜になったら魔法生物キューちゃんを呼んで、

一回帰ろうと思うんだ。トキノ先生と話してくるよ」


私も一緒に帰っていい?――と聞くと、


「見失うと面倒だからダメ」


と即答された。


私――元気、なくなったかも……

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