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彼女の∞と私の零と  作者: イニシ
第六章:遷進世界

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094話:ガルツ国の人たちが勝手に倒しちゃった

辺境の縁に着くまでかなり掛かった。


その間、三つの国を通り抜け、最後にたどり着いたのは――

辺境境界獣育国家、ガルツ国。


……だったのだけど、首都へ向かう街道のどこかで道を間違えたのか、

町という町を一つも通らず、最速で“辺境”に辿り着いてしまった。


私の心の中では、そろそろこの二人と別れたいと思っていた。

でも――“時の歯車を回す”には、こういった苦労も付きものだと、

自分に言い聞かせるしかなかった。


「ねぇ、ロテュ、レラ。辺境での装備はどうするの?

食べ物も水も、補給できる場所なんてどこにもないんだからね?」


「大丈夫だよ。いざとなれば我慢すればいいし、すぐ見つけるからさ」


……ロテュがそう言うのは、もう予想していた。問題は、レラのほうだった。


何日も一緒にいるうちに、彼女が思った以上に内向的で、

引っ込み思案だということがわかってきた。

かなり疲れていても、ロテュにはほとんど何も言わない。

それが後ろから見ていると、はっきりと伝わってきた。


だから私は、意識的に休憩の提案をして、

少しでも彼女を休ませるようにしていた。

けれど、ロテュはたまに――それを面倒くさそうにする時があった。


「私も大丈夫だよ。……実はどの新神様かわからないけど、

新しい魔法を覚えたの」


どうやら新神魔法は、その魔法を使うこと自体が“神への信仰”になっていて、

ある種の神託を受けることで、新しい魔法が覚えられるようだった。


ここに着くまで、どれだけ“余計な戦い”を重ねてきたかは――

レラの魔法の熟練度を見ればよくわかった。


そしてロテュの場合は……彼がいつから“盗賊”になったのか知らないけど、

戦いの中で手に入れた武器や防具を、

すっかり自分のものにして身につけていた。


「どんな魔法を覚えたの? 教えてほしいな」そうレラに聞いてみた。


すると彼女は――辺境での探索には欠かせないような、

魔法をいくつか教えてくれた。

たとえば、水を出す魔法や、敵対的な生物を感知しやすくする魔法。

どちらも、本当に“使える”ものばかりだった。


ただ……水の魔法は、喉が渇いてから使えばよかったけど、

敵対生物を発見する魔法は、

先に使わなければ意味がない事を、この時に初めてみんな知った。


獣種までの距離はまだ遠くだったけど、すでに発見されているようで、

明らかにこちらを警戒している気配があった。


こういうとき、私だったらまず最初にやることは――

“その獣種の生態を調べる”こと。


でも、獣種図鑑なんて当然持っていない。

ガルツ国の首都で手に入れるつもりだったんだけど……

その首都にすら寄らず、ここまで来ちゃったから仕方がない。


――それに、この二人には“調べる”とか“話し合う”っていう考えは、

なかったみたい。“敵”と見なした瞬間――迷わず、先手を取る。それだけ。


……そして、獣種に向かって、わざわざ自分から歩み寄って行った。

明らかに“力の差”がある相手に対して。

子供と大人どころじゃない。獣種と人間なんですけど……私たち。


「あの獣種、少し手伝ってあげれば、そこまで苦労せず倒せると思うよ」


姿を消しているヴェルシーが、私のすぐ近くで声を落とした。


もちろん、手伝わなければ――

あの大きな牙に切り裂かれるか、勢いよく踏みつけられて終わるだろう。

でも、“手伝えば”、致命傷は免れる。

つまり――それくらいの力はあるってこと。


でも、私が今、本当に気になっているのは――その獣種じゃない。

もっとずっと遠く。大地の奥から煙を引き裂くように立ち上る、土煙。

しかもそれは、一匹や二匹の獣種じゃない。……もっと多かった。


「ヴェルシー。また勇者くんのほう、お願いね。私は……向こうを見てるよ」


「はーい」


あいかわらず、やる気のなさそうな返事。でも、ヴェルシーは頼りになるから。


風が吹いてない時の土煙は、

濃い赤褐色で私には大地から噴き出た血を想像した。

あの獣種が切り裂いているのかな?いやそんな事どうでもいいかな。


ん?よく見ると、獣種の背中――人が乗っているのが見えた。


あれ、もしかして……ガルツ国の軍団?


トール国とはとても仲がいい国。

私が父さまといた頃にも、何度か一緒に辺境探索をしていた。

だから、装備や騎乗のスタイルにも見覚えがあった。


――そのときだった。土煙が、突然空に吸い上げられるように舞い上がった。


一瞬で視界が開けた。

私は目を大きく見開いた。


そこから放たれた槍が数本。

そして、――精霊が一体。地面を滑るように飛んできた。


それらは、ロテュとレラが戦っている獣種に向かって一直線に飛んでいった。


気づいてない……あの二人、戦いに夢中すぎて!


地面すれすれに飛んでいた槍は、獣種に近づいた瞬間、

ぐっと軌道を変えて空へ――

そして、そこから雨のように降り注いだ槍が、すべて獣種に突き刺さった。


ロテュとレラは、呆然とした顔していた。


まだ輪郭を持たない精霊は静かに、そのまま主の元へ戻っていった。


――そして――ガルツ国の軍団が私たちの目の前に現れた。

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