086話:時空圧縮転生?トキノちゃんの新しい魔法かな?
私……ずっとリレアスさまのことが頭から離れないよ。
いつの間にか私は部屋に帰って来ていた。
三日月形のベッドで寝ていれば悲しみも晴れるかもしれない……
どれくらい経ったのかな?
それでも、窓から入る花冠からの反射光はいつもと変わらなかった。
ふいに「ヴェルシー」と弱々しい声で呼んでみた。
「……瑠る璃のせいじゃないよ」
頭のすぐ上から、優しい声がした。
その声だけで、泣きそうになる。
「でもー……」
私がリレアスさまを殺してしまったのは確かだった。
もう何度目かわからないため息をついていると――
「えっ、そんな事……ないよ……」
飛び上がるように起きたヴェルシー。
すごく慌ててた。
え……なにをそんなに驚いてるの?
「危ないから、僕の後ろについて来て」
そう言って、私がちゃんとついてきてるか、
何度も振り返りながら部屋の奥へ進んでいった。
ヴェルシーは、部屋の螺旋階段を下にそーっと覗いてた。
私も後ろから、ちょっと覗いてみる。
階下の、さらにもう一つ下に――記憶にない部屋ができていて、
そこからガサゴソと……まるで部屋全体を掃除してるような音がしていた。
「見に行くよ」
そう言って、ヴェルシーが一段ずつ階段を降りていく。
「”時が動いた”影響かも……」
その小さなつぶやきに、私は無意識に息を飲んでいた。
やっと、キッチンなどがある一段目に到着で、
ここから先は、見たことのない場所だった。
音は続いてるけど、それはさらに奥の部屋らしくて――
もっと下まで降りないと、様子はわからなかった。
私は静かに、そーっと階段を降りていく。
すると、ヴェルシーが立ち止まった。
私も後ろから覗くと、子供?みたいな後ろ姿が見えた。
背中しか見えないけど、やっぱり何かを片付けをしてるみたいだった。
一瞬、リュオン君かと思った。
けれど……雰囲気がまったく違う。
むしろ、可愛らしい女の子にも見えた。
ヴェルシーが私の方を振り返って、早口で言った。
「ごめん、相手に音は聞こえていないよ。
僕の後ろにいることだけは気をつけてね」
そうか、ヴェルシーが一番気にしてくれているのは、私のことだった。
姿や音は、彼の魔法で隠せる。
だから、彼の後ろにいることが大事なんだ――そう思った。
大丈夫、私はぴたっと、ヴェルシーに続いて階下に降りていった。
そこには、部屋があった。
予想とはまるで違っていて、淡い色の壁や天井、
そこに吊るされている明かりが幾重にも連なっている。
シャンデリアは星型で、部屋の端で、
こちらに振り向いた女の子にはとても似合っていた。
誰だろう? 私は見たことがない子だった。
その子は私たちに向かって腕を伸ばし、何かをつぶやいた。
「もう、見つかったみたいだよ」
それを聞いて、ヴェルシーが強張った声で話しかける。
「君は誰なんだい!? どこから僕の部屋に入ったの!?」
「あたしの名前はトキノだよ」
ふふっと笑いながら、笑顔で続けた。
「も~ぉ、瑠る璃おねちゃんとヴェルシーおねちゃんが言ったじゃん。
“さっきね”……わかるよね?」
私、すぐにわかった。
「えっ、もしかしてリレアスさま?……だよね?」
姿は違う。でも、リレアスさまだと思った。
だって、“さっき”のことを知ってるのは、三人しかいないんだから。
でも、ヴェルシーはまだ疑ってる感じだった。
「リレアスさまだとしたら、どうやって僕の部屋に入ったの?絶対無理だよね」
トキノはまた、けらけらと笑いながら言った。
「そうかな~? ほんとに~?
今さ、こっちの世界の“時”がちょっとだけ、ガタって動いたから、
あっちと差ができてさ。
ここにも、あたしが通れるくらいの隙間ができてるんだよ~。
だから、早く防壁を治した方がいいよ~」
「ああ、やっぱり動いてるんだ、時が……」
ヴェルシーは少し嬉しそうだった。けれど、すぐに首をかしげる。
「……でも、リレアスさまは生きてるのに?」
「あ~~、リレアスじゃなくて、トキノだよ」
そう言って、トキノはわざとらしくため息をついて、ぱしっと指を鳴らした。
「はいっ、罰にしよう。壁を治してくるまで帰ってこれません!」
私は、どういうことなのか理解できないまま、そのやりとりを見ていた。
気づけば、ヴェルシーの姿がだんだん透明になっていった……
「ヴェルシー!」
手を伸ばして捕まえようとした時には、もう遅かった。
あっという間に、彼は完全に消えてしまった。
「ヴェルシーは……どこに行ったの?」
「そこにいるでしょ?『非物質界―アストラルプレーン』の方にだけどね」
そう言いながら、トキノがふわりと私に近づいてきた。
そして、不安そうな私を見て、軽く笑った。
「瑠る璃おねちゃんと話したいから、ちょうどいいや」
そう言って、すーっと流れてきた一人掛けのソファに私は座らされて、
部屋の奥へと運ばれていった。
――それから、ヴェルシーが戻ってくるまでのあいだに話したことは……
まず、トキノちゃんはリレアスさまじゃないけど、
《転生》した肉体だとか?
それから、時空が圧縮されたから、こんなに早く転生できた……らしい?
記憶は忘れてる部分もあるけど、そのうち思い出すはず、とか?
私が聞いたのは、そのくらいだった。
――最後にもう一つだけ聞いた。
「私は、トキノちゃんに対して喜んでいいのかな?」
すると、笑顔で返された。
「好きなだけどうぞ」
……ああ、やっぱりリレアスさまなんだ、と思った。
トキノちゃんは、私に聞きたいことがいろいろあったみたいだけど、
「やっぱり、あとでいいや」って言って――
私の抱擁や、なでなでを、ヴェルシーが帰ってくるまで、
ずっと受け入れてくれていた。




