082話:出会いは突然かも
私は深夜の闇夜の中、そこに浮上したと思ったけれど、
大勢が休憩している植物種森のあたりは、思ったより明るかった。
私にとっては明暗の差はまったく問題ないけれど、
闇猫の魔法生物キューちゃんにとっては、周囲が暗ければ暗いほど、
闇に完全に溶け込んでしまえる。
精霊はともかく、私たちの国の人たちに見つかっては面倒だった。
「きっとユキノキ国の休憩所でしょ? 少し迂回すればいいけど……」
ヴェルシーは少し困り顔で考え込んだ。
「次に潜れる場所が重なっちゃうと、どんどん迂回しないといけなくなるし、
魔法生物キューちゃんにだいぶ走ってもらわないといけないかも……」
私が『キューちゃんはすごく速いんだから、
追い抜いて先に行けばいいのでは?』と聞くと、
「これだけ多くの人が植物種森に入ってると、
安全のためにかなりの数の精霊が警備や探索に出ていた。
それに、場合によってはマス・テレポートで移動されるから、
できるだけ近づかない方がいいかな」
むぅ、それじゃ遠回りしていくのかな?
見ると、どうやら魔法生物キューちゃんは、
無難に近づいたり離れたりしながら疾走していた。
「瑠る璃、後ろを見て」
私は「なに?」と聞き返しながら、椅子に座ったまま振り返った。
前面の窓ほど大きくはないが、後方にも細長い窓がいくつか並んでいた。
そこに見えたのは……帝都の明かり?
いや、色合いが違うし、見えるほど近くはないと思う。
「あれは探索隊の本隊だよ。ユキノキ国の人だけじゃなくて、
世界各国からも来てるし、アメノシラバ帝国ですら手伝ってるんだから。
敵対同士でも、共通の強敵が現れたらこうなるんだね」
そっかすごいね……このあたりにいる人たちだけでも、
十分な人数だと思っていたけれど、後方にいるのが本隊だったなんて……
私はまた、くるっと椅子を回して前方を見た。
すると、今並行している部隊の、さらに先に明るい光が見えた。
「じゃ、あれが一番先にいる先行部隊かな?」
「いつものことだろうけど、それは部隊じゃないかもね」
ヴェルシーまたかと言いたげで、いつもの無表情で言った。
「えっ、それじゃ、あの光はなんなの?」
「“上”で僕にも見せて。このボタンを押してね」
ヴェルシーは体を寄せてそう言ったが、すでに勝手にボタンを押していた。シューーーン、と音を立てて椅子が上に上がっていく。
部屋の天井の闇毛を抜けると、
まるで魔法生物キューちゃんの、背中に乗っているような形になった。
そして外に出たせいか、魔法生物キューちゃんが、
地面を蹴る勢いでかなり揺すられていた。
――隣にヴェルシーが上がって来た。
「何が見えるか試してみよう」
「きもちわるいんですけど……」
ヴェルシーを睨みながら言うと。
「もう、ゆっくり歩いてもらってるよ。大丈夫!」
――むぅー、もうちょっと早く言ってくれたらよかったのに……
私は椅子にもたれ、植物種森の奥の光に集中した。
「あれは……炎かな?」
私がヴェルシーに教えると、
「この僕が作った椅子は、このままでも瑠る璃が、
見た物は大体見えるようになっているよ」と返された。
なるほど、すごい椅子なんだね。
改めて集中すると、一瞬だけ視線の先に合うものがいた。
私が一度も見たことがない形態で、ものすごく大きな動植物種だ。
どんな能力を秘めているのかはわからない。
でも、まわりで戦っている者たちの数を考えれば、とても強く見えた。
「どうするの、ヴェルシー?」
隣のヴェルシーを見ると、見返してきた。
「ちゃんと見たよ。あれは他世界の人たちだね……
とりあえず、先発隊に向けて信号を出すよ。僕たちだとわからないようにね」
「他世界の人か……部隊の人は初めて会うかもね。
私たちと似ている、でも違う人を。これって、なんだか世界が動いてるよね?」
私が「あれ、炎かな?」とヴェルシーに言うと、
「この椅子は、瑠る璃が見たものを僕も共有できる仕組みにしてあるよ」
と返された。
なるほど、すごい椅子なんだね。
改めて集中すると、一瞬だけ視線の先に合うものが見えた。
ものすごく大きな動植物種だ。
私は一度も見たことがない形態で、どんな能力を秘めているのかはわからない。
でも、まわりで戦っている者たちの数を考えれば、とても強く思えた。
「どうするの、ヴェルシー?」
横にいる彼女を見ると、見返してきたヴェルシーは、
「ちゃんと見たよ。あれは他世界の人たちだね……
とりあえず、先発隊に向けて信号を出すよ。僕たちだとわからないようにね」
「他世界の人か……部隊の人は初めて会うかもね。
私たちと似ている、でも違う人を。
これって、なんだか世界が動いてるよね?」
「そうかもね……それもあるけど、リュオン君を助けないと……」
そう言うと椅子を下げて部屋の中に戻ったようだった。
私はここで見張るのかな?と思っていると、
また勝手に部屋へ戻っていった。
……ボタンを教えてくれればいいのに。
中では、魔掌ルドさんが待っていた。
「おかえりなさい。あちらの他世界の人たちには、
何度か接触したことがあります。
彼らは魔法に対する対応能力が低く、
ヴェルシー様の幻影をディスペルする事はできません。
見られる可能性はかなり低いので、
このまま、動植物種《仮称い》に接触いたしますので、
ベルトを装着させていただきますね」
座っている椅子を見ていると、なにやら半透明の、
クッションのようなもので体全体を包み込んだようだった。
魔掌ルドさんにベルトを外すときはどうすればいいのか聞くと。
「考えるだけで、エンベロープベルトは外れます。
……これも最新技術です。今度は、瑠る璃さまをお守りします」
魔掌ルドさんはなんだか私への言葉数は少なくなったようだけど、
ちゃんと私のことを考えてくれているようだった。
「では、瑠る璃さま、ヴェルシーさま。
最速で、動植物種《仮称い》に向かいます」
そして迫ってくる木々を器用に避けながら、
植物種森を疾走する魔法生物キューちゃんだった。




