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彼女の∞と私の零と  作者: イニシ
第五章:生命の女神リレアス

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079話:リレアスさまの頼み事

私は内室に入る前で立ち止まって考えていた。

リュオン君を探しに行くことを、きっとみんな願っていると思う。


今思えば、女官イースさんは――

辞職を覚悟で探索隊に参加しようとしていたのかもしれない。

女官の中でも一番若い年齢層だろうし、よほど特別な理由がなければ、

休暇なんてもらえないはずだった。


私には、碧り佳姉さまや深る雪姉さまがいたおかげで、

直接仕えてくれる女官はいなかったけれど。

姉さまたちにはいつも、二、三人の女官が仕えていて、

そういう話は聞いたことがある。


女官というのは、基本的に任務が厳しくて、

自分の意思で動ける時間なんてほんのわずか。


……そう思うと、女官イースさんには、かなり迷惑をかけてる気がした。

私のわがままに、何も言わず付き合ってくれていたのだから。

……まぁ、それはあとで考えよう。


女神リレアスさまも、きっとリュオン君のことを気にかけていたと思う。

でも――どうしてかしら?微細な事情までは分からない。

ただ、知りたいし、話してみたい。

……でも、“今”聞きに行ってもいいのかな。迷惑じゃないかな。


冷静になった今の私には、神さまにどう接すればいいのか、

わからなくなっていた。

それでも、もう一度だけ――会いたかった。リレアスさまに。


……いいかな、ヴェルシー?


そう心の中で問いかけたその時、目の前の扉が静かに開いた。


「今度は、一人で行かないでよ」


ヴェルシーはそう言いながら、私の手をそっと取った。


「僕の領域はここまでだから、ちょっと歩くよ」


そう言って、彼女は私を引くようにして、扉から扉へと導いていく。


後ろを振り返ると――もう、そこには扉はなかった。

帰るには、自分の足で歩くしかない。


でも、それでいい。


図書室へ、リレアスさまに会いに行くという気持ちは変わらないし――

今回は、ヴェルシーがそばにいる。だから、心強い。


夜に通った時とはまるで違って、

太陽の光がタイルの床に反射し、世界の表情を変えていた。


――図書室の前にたどり着く頃には、

ヴェルシーが私の背中にぴたっとくっついていた。

なんで?と思って振り返りかけたら、

「“あの人”、怖いから」と小さく教えてくれた。


……心の中で、私もですけど!?と叫ぶ。


だって、図書室の取っ手に手をかけようとした瞬間――

勝手に、扉が開いた。

しかもそのまま、自然と足が前に出て、ずるずると中に入ってしまった。

あれ? これ……殺されちゃう流れじゃない?


……いやいや、こんなこと考えてるのは、

たぶん今――ヴェルシーが私を後ろから、ぎゅっと抱きしめてるからだ。


妙に落ち着かない気持ちを抱えたまま、その巻きついた腕に触れながら、

私はリレアス様の姿を探した。

手前の、夜中に私が座っていたあの読書スペースにはいなかった。


きょろきょろと視線を泳がせていると、

ヴェルシーの腕がにゅっと伸びて――奥の図書棚の一角を、静かに指差した。


そちらに静かに歩いていくと、いくつかの棚と棚のあいだ――

その隙間に、リレアスさまの姿があった。

片手で本を持ち、静かに目を通している。

見た目は老婆の姿に戻っていて、どこか落ち着いた空気をまとっていた。


「あ、あの……私、戦いに来たわけじゃなくて――

リュオン君のことを、聞きたくて……」


「わかるよ。こんなすぐに再戦しようと思うおバカは、

勇者くらいなもんだからねぇ」


……勇者が何かはよくわからない。


でも、私きっとおバカではないから大丈夫。

ただ、リュオン君のこと、なにかわかれば――見つけられるような気がした。


「なんでもいいんです。もし、知っていることがあれば、教えてください」


けれどリレアス様は、ずっと何かを考えているようで――

しばらく何も答えてくれなかった。


ようやく口を開いたのは、しばらくたってからだった。


「教えることはなにもないよ……。

でもね、私は直接見に行くことはできないから。

あなたたちが代わりに見に行ってくれるなら――

帰って来た時に、なにかひとつ、願いを叶えてあげようかねぇ」


私はそれがどういう意味なのか、すぐには理解できなかった。

でも、代わりにヴェルシーが口を開く。


「……リュオン君が今どうなっているのか。記録してくればいいんですね?」


「そう、記録を持ってくる――それだけでいいからねぇ」


そう言って、リレアスさまは手元の本をたたんだ。

けれど最後まで、こちらへ視線は向けなかった。


「……復活はできないと思って、行きなさい。ちゃんと、帰ってくるんだよ」


その言葉の響きに、私は――この神さまが今は、

あの図書室の管理人・ローズさんと同じように、

優しさで見守ってくれている気がして、少しだけ嬉しくなった。


「はい、絶対帰ってきます」


私がそう言うと、隣にいたヴェルシーも「うん」とだけ、短くうなずいた。

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