お互い秘密事を知っている、これって友達かな?
扉を超えて最初に目についたのは、部屋の広さだった。
壁一面の本棚には、大量の本が詰まっている。
なかには、私が隠れられるほどの巨大な本もある。
いったい誰が読むのか、想像もつかない。
手を引かれながら先を見ると、煌びやかな棚に並ぶ数々の宝石が目に入った。
それだけではない。机の上にも、まるで無造作に散りばめられたかのように宝石が積まれている。
さらによく見ると、ふかふかの長毛の絨毯の間にも、光を反射して煌めく小さな宝石が埋もれていた。
視線を巡らせると、螺旋階段がある。
そこから覗いた先に見えたのは――キッチンのようだった。
そんな部屋の中心で、「座りなよ」と促されたのは――
百人は寝られそうなほど巨大なベッドの上だった。
さらさらとしたシーツが掛けられている。
私は、手触りを確かめるふりをしながら、そっと顔をそらした。
すると、相手が間近に寄ってきた。
「ねぇねぇ、瑠る璃。」
その声に、思わず反応して視線を向けてしまった。――その瞬間、確信した。
先ほどから、まるで心を読まれているような感覚があった。けれど、今は違う。
もう、すべてを見透かされている。
その瞳が、私の奥の奥まで覗き込んでいる――絶対に。
けれど、どうしても視線を外すことができない。
どうしたらいいの? 魅了の魔法なの?考えてることも読まれているし……
一体、何を求めているの……?
「――友達になろうよ。というか、友達になるよ。君と僕はね」
なんで友達になるのよ、こんな状況で。
「だって、お互いの秘密を交し合えば、友達になれるよね?」
瑠る璃は、自分の意思ではないと思いつつも、こくりと頷いてしまった。
えっ……えっ……えーーーーーー!?
もう、最後の手段しかない。先ほどは効果がなかった指輪とは違う、自衛用の首飾り。
いざという時、最後の最後にだけ使え――そう言われて渡されたもの。
どんな魔法が宿っているのかは知らされていない。
だが、確実に強力な力が込められている。
目線が外せない。頭がぼやける。意識が呑まれそうになる――ダメだ。このままでは……!
瑠る璃は、最後の手段として護衛魔法のワードを唱えた。
――その瞬間、視線が外れた。
気づけば、目の前の子供が瑠る璃の胸元に手を伸ばしていた。
……え?
自分の胸元を見下ろすと、碧い光に包まれた首飾り。
その輝く宝石を、子供が右手でいじくりながら、ぽつりと呟く。
「これ、使うのは勿体ないよ。……ほんと、君、大事にされてるんだね。」
……魔法のワード、最後まで言えなかった?それとも、途中で遮られた……?
けれど、もう魅了の魔法にはかかっていないようだ。
「次は……私に何をするつもりなの?」
瑠る璃は、首飾りを取り返しながら、できるだけ距離を取った。
「何もしないよ。もう友達でしょ?だからおしえるね。」
「……何を教えるつもり?」
「名前だよ。」
子供は笑う。
「僕の名前はヴェル。」
友達……になればいいの?なってもいいの?
私の秘密は……もうバレちゃったの?
ヴェル……君の秘密って?
……もう、どうにでもなりなさいよ。
「友達ね、ヴェル君。よろしくね。」
これでよいのだろうか?
……まぁいいか。
考えることがたくさんあって、もう疲れた。
――ふと気づけば、『蝕界』が終わっていた。短時間で終わったのは幸運だった。
私のこの状況も、短時間で終わればいいのだけど……。




