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彼女の∞と私の零と  作者: イニシ
第五章:生命の女神リレアス

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073話:よーし二人で引き込んじゃおう

帝都の中心部に広がる繁華街は、日が傾く頃が最も賑わいを見せていた。

南北を貫く大通りは、ざっくりと分けると南側に人々の営みが密集しており、

店や屋台のほとんどが九割方そちらに並んでいた。

一方で、北側には静かに宮殿が構え、

その奥には絶壁をもつ平たい山がそびえていた。


さらに、南北の大通りから東西に延びるもう一本の通り――

それは帝都を越え、トール国へと続く長い街道でもあった。

どちらの大通りにも、魔力を帯びた石畳がふわりと浮かぶように敷き詰められ、

足元を歩くたびにわずかに光が揺れていた。


人の流れは絶えない、道の両脇に並ぶ店々からは、

香ばしい香りや奇妙な呼び声が絶え間なく響いていた。

通りの一角では、煙で味が変わる焼き菓子を焼く屋台が行列を作っていた。

客はそれぞれ好みの香りを選び、空中でふわりと色のついた、

煙を纏った菓子を手に笑みを浮かべている。


そのすぐ隣には、「これは盗品です」と正直に掲げた、

看板が印象的な盗品店があり、真偽はともかく、

興味本位で立ち寄る客が後を絶たなかった。

さらに進めば、武具店が並ぶ通りに入る。

どの店も魔法付与されたものであり、どれも性能は良かったけど、

今流行っているのは武具との相性でそれを、

占ってもらう店の方が繁盛しているようだった。


私と女官イースさんは、大通りを一つ外れた細い道を歩いていた。


「だめですよ、瑠る璃さま……」


女官イースさんは困ったようにそう言ったけど、私の足は止まらなかった。


繁華街の裏手――表通りの光や喧騒から一歩外れるだけで、

空気はがらりと変わる。

道幅は人ひとりが肩をすぼめて通れるほどしかなく、

石畳も古びてひび割れ、魔力の光さえ届いていない。

頭上では布や看板が絡まり合うように垂れ下がり、空もほとんど見えなかった。


そんな中で、私は“それ”を見た!……目玉の精霊。

それは――宙を漂う、眼だけの精霊。

まばたきもせず、まわりをゆっくり見ていた。


ん?あの精霊はまさか、あの子の……?


フロラ王の地下都市で出会ったときのような異様な存在感はなく、

手のひらにすっぽり乗りそうな、小さな目玉ほどの大きさだった。


もう少し一人で調べたかったので、

帰ってもいいよと女官イースさんに言ったけれど、

もちろん首を横に振って、私をひとりにはしてくれなかった。


私は、狭い路地の中で立ち止まったまま考えていた。

女官イースさんがそばにいると、思うように力が出せない。

それに――さっき、ヴェルシーにも言われてた「覗きに使わないように」と。


このまま女官イースさんといると大変なので諦める事にした。


「イースさん、帰りましょうか」


すぐに女官イースは私の手を取った。

ほっとしたような表情で、最短の道を選び、大通りへと戻ろうとした。


……まぁ、今じゃなくても……平気だと思ったその瞬間だった。


先ほど見た目玉と人影――あれが、ほんの一瞬だけ。

でも、はっきりと見えた。すぐそばにいたわけじゃないのに……どうして?

まるで周囲の建物を透かしているように見えた。


壁も扉も意味をなさず、その姿だけが、

間を飛び越えるように視界に焼きついた。


そして何より――その人影の“誰か”に、見られた。確実に。


手を引かれて、大通りに出たあとも、

私は黙ったまま彼女のあとについて行った。


そして、宮殿へと帰るまで――私はずっと考えていた。

あの人影は、子供ではなかった。


……だとしたら……誰だったのかな?


それに――もし、私だと気づかれてしまったのなら。


母さまに……


この世界で私の秘密がばれたのなら、知らせなければならなかった。


いろんな思考が、波のように押し寄せてくる。

重なって、ほどけずに、胸の中に積もっていく。


まずは……ヴェルシーに話して一緒に考えてもらおう。

――それに、ルクミィさんがいてくれたら。きっと、もう少し安心できるのに。


女官イースさんに手を引かれ、宮殿の内室に戻った私は、

軽くお別れを言ってすぐ部屋へ向かった。

扉の前で、いつもの部屋を思い浮かべる――すると扉は、

ちゃんとその部屋へと繋がっていた。


「ねぇ、ねぇ、ねぇ、ヴェルシーいるかな?」


部屋に入ってすぐには、彼女の姿が見えなかった。

でもそれは当然だった。本の山に、完全に埋もれていたのだから。


「あれ?なんでそこで本を読んでるの……あっ、そうじゃなくて……」


私は急に胸がからっぽになったのか、大きな息を吸ってから口にした。


「ねぇ、私、見られちゃったのかな?」


「慌てないで。今日は不思議なことが多いね」


ヴェルシーは、本の山を丁寧に脇に置きながら立ち上がった。

絨毯の上に散らばる本を背にして、こちらを見た。


「僕が掛けてある魔法は、まだちゃんと残ってるよ。

だから――直接、顔を見られていなければ平気だよ」


その一言に、私はほっとした。ふらりと力が抜けて、私はベッドに倒れ込む。

いつも微かに感じる甘美な香りを感じながら、息を整えた。


「もう、ここから出ない方がいいかな?んむー」


私は何を見たのかな?


それに、見たり見られたりするのも大変だし、ここに引きこもりたい……


ヴェルシーは、ベッドサイドに座った。


「僕たち家出したでしょ?それと同じに、この世界で外に出ようか?

僕たちの秘密がこの世界に知られたら……やっぱり面倒なだけだね……」


「んっ?どうしたの?」


「僕たちだけの力で、動かせないかなと考えたんだけど、

やっぱりダメだよ。この世界は強固に出来ている。お手上げだね」


彼女もそのままベッドに倒れ込み、一緒に横になった。


「それじゃ、引きこもっていればいいんだね?」


「そうしようっか」


今、この部屋には淡い光を放つ宝石だけが光源だった。

光が壁で揺らめいていると、部屋全体が水の中にいるようで――


私には意識が無くなって眠りに入るには、十分なやすらぎだった。

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