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彼女の∞と私の零と  作者: イニシ
第五章:生命の女神リレアス

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068話:ヴェルシーと図書館へお出かけね

私たちの“秘密部屋”は、碧り佳姉さまにはお片付けしてもらって、

深る雪姉さまにはお掃除をしてもらった。

私は最初それらを手伝おうと思っていたけど、

二人の手際よさを見ているだけになってしまった。


以前のように突然帝都へ、向かわなければならないと言う状況ではないから、

心も落ち着いていたし、埃が舞わなくなった頃には、

すっかり整理整頓されて部屋は見違えるほど綺麗になった。


「瑠る璃ちゃん、少し速いけど昼食を食べるかな?」


深る雪姉さまは、私の返事を聞くとすぐさま、食事を運んで来てくれた。


「今日も美味しいです……」


今日でこの食事を頂けるのは最後になるのかな――

帰ってくればいつでも食べられる食事になぜかしんみりした。


食事を済ませたあとは、外出用の服に着替えた。

碧り佳姉さまが選んでくれたこの服は、私にしては大人ぽかった。

でもそれが良かったのか、気分が一掃して高揚してきたようだった。


――謹慎が解けた私は、改めて帝都での生活を始める。

長い廊下を歩き正門まで着くと、振り向いて二人の姉様たちに言った


「碧り佳姉様、深る雪姉様、行ってまいります」


「はい、気を付けていってらっしゃい」


お別れの挨拶をすると、私用の六人乗りのふわりんに乗り込んだ。

今回は、見送ってくれるのは姉様たち二人だけだった。

だけど、それで十分だった。私はふたりに向かって、両手を大きく振った。


しばらくふわりんで進んだ通りで、なんだか騒がしかった。


「なにかしら?ふわりんの中からは、窓にも装飾があって見づらいよね」


とりあえず窓から外の様子を伺うと、いつもと違う気がした。

制服姿の武系の人たちが、道沿いに多く立っていた。


――どうしたんだろう? 何かあったのかな?

もしも植物種の浸食などが原因なら、私にも知らせてくれてたはずだし、

この状況が何を意味しているのか、まったくわからなかった。


……あとでヴェルシーに聞いてみようかな。


そう考えながら進むうちに、私のふわりんは入国検査を問題なく通過して、

そのまま帝都の大通りを横目に奥宮殿へと到着した。


いつも奥宮殿は人が少ない。

けれど、ここへ来るまでの通りの人波を思い出すと、

この場所だけがまるで別の世界のように感じられた。


ふわりんを降りると、そこも誰もいないけど、

私は道は覚えているから迷うことはなかった。


綺麗に舗装された道を歩きながら、

一定間隔に配置された照明を数えてみた。


――ひとつ、ふたつ、みっつ……


百を数えたあたりで面倒になり、やめようとした時。


「……百一、百二」


突然、一緒に数えてくれる声があった。

驚いて振り向くと――そこにはヴェルシーがいた。


「ヴェルシー!? こんなところで何をしているの?」


いつものような無表情なのに、どこか楽しげに答えた。


「もちろん、君を迎えに来たんだよ」


私は特にヴェルシーに連絡をしたわけではなかったのに、

どうやって私を見つけたんだろう?


うーん、 いったい魔法ってどこまで私を追えるのかな……

――いきなり行って驚かせる、なんてことは、ヴェルシーにはできないんだね。


「魔法使いになれば、僕を脅かせることができるかもね」


そう返されたけど、つまり私には絶対無理だってことでしょ! もう!


「そんなことより、ちょっと付き合ってほしいところがあるから、

ここまで来たんだ」


そんなことって……


「それでどこに行くの?」


「王立図書館だよ」


あ、そうか私は、女神リレアス様のことを調べるのだと思った。


「それは君に任せるよ。――僕は、他の調べ物があるから」


ん?他のことね……


「そういえば、私も都全体が騒がしいことを、

聞こうと思ってたんだ、なにか知ってる?」


彼女は真剣な顔をして私に近寄って、耳元で――


「知っているよ。僕たちのせいだからね」


えっ?えっー私たち何かしたかな?


「ここじゃ話せないから、あとでね」


そう言われると、今は自分一人で考えるしかなくて――あれかな? これかな? と考えを巡らせているうちに、いつの間にか手を引かれていた。


気づけば、王立図書館の前だった。三階建ての、窓がほとんどないし、

飾り気のない真四角な建物。図書館というより、倉庫のように見えた。


利用する人も少ないみたいで、人通りはなかった。

私たちは、正門の出入口から中へ入った。目の前に広がる大量の本棚。

私はそちらへ向かおうとしたら――


「そっちじゃないよ。」


腕を掴まれ、隣接する小部屋へと引っ張られていった。


部屋の中には何もない。


だけど、すべての壁が明るく、天井や床まで光に満ちているせいで、

かえって不気味さが際立っていた。

そして、その中心に――誰かが立っていた……人形?


精密に作られていて、素材は間違いなく植物種由来の木材だった。

魔法由来の木材を見ることは多いけど……こんな場所に、なぜ?


「昔は“アストラル界”で失われた文献を探していた存在だけど……

今はただの情報管理装置として使われているね」


「ふーん。それじゃあ、この人形がここの図書館の管理人なのかしら?」


「いや、管理しているのは別の人だよ。

人形の姿をしているのは、製作者の趣味だね、たぶん」


帝都の深部に、生きた植物種がいるなんて初めて知った。

ヴェルシーに聞いてみると、

意外にも形を変えて利用されている、植物種は多いらしい。

敵対種であっても、研究し利用するようだった。


「それで、その植物種人形には何をしてもらうの?」


「ここで調べるのは色々と不便だから、

部屋まで運んでもらおうと思いついたんだ」


ヴェルシーが植物種人形の前へ歩いて、手招きされたので私も隣に立った。

ヴェルシーはそのまま、植物種人形に向かって話しかけた。


「トール国第一王女ミドリノトール・瑠る璃による一級閲覧を許可し、

以下の座標まで九重距離防壁を不規則化方面へ作り上げろ」


……めずらしくヴェルシーが、私の知っている言葉で話しているけど、

内容はやっぱりわからない……


植物種人形が片手を伸ばすと、ヴェルシーはその手を握った。

次に、反対の手が差し伸べられていた。


……私?少し戸惑っていると、ヴェルシーがそっと腰に手を回してくれた。


一呼吸置いて、意を決しった――

気味の悪い植物種人形の手に、自分の手を重ねた。


「終」


あれ?終わりなのね?


植物種人形が、それだけを告げた。

私はどうしたらいいのか、分からないまま立ち尽くしていたら――


「帰ろう」


ヴェルシーが植物種人形のように淡々と言うと歩き出した。

私の頭はまだ働かないままだったけど、ヴェルシーの後を追っていった。

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