067話:そういえばまだ謹慎中だった
んー、なんだろう? だあれ?私の肩を優しく揺さぶる感覚。
深る雪姉さまかな? ――まだ眠いです、姉さま……
「さま……。――瑠る璃さま……」
「うん」もう少し寝ていますよ私……
「瑠る璃さま、お友達がいらしゃっていますよ」
「うん……」友達? 私の友達って……。
え?ぱっちり目が覚めた。
深る雪姉さまがベッドの上で四つん這いになり、私の顔を覗き込んでいた。
突然目を覚ました私を見て、彼女はくすっと笑い、すっと立ち上がった。
そして、私に伸ばされた手を取ると、優しく引き起こしてくれた。
「ヴェルシーはどこにいるの?」
「おはよう、瑠る璃さま。ヴェルシーさまは右手の客間にいらっしゃいますよ。でも、お会いになるのは顔を洗ってからですからね」
「はい、おはようございます、深る雪姉さま。わかっています!」
私はベッドから飛び降りて、早足で洗面所へ向かった。
顔を洗うことを最優先にしながら。
――ヴェルシーのいる客間に向かう途中、碧り佳姉さまに
「寝衣のままでですか?」とたしなめられたけど、私は軽く手を振った。
「大丈夫です。彼女とは一緒に住んでいたんですから」
そう答えると、碧り佳姉さまは驚愕したように硬直してしまった。
――え、そんなに驚くこと?
まあ、そこは深る雪姉さまに任せて、私はそのまま客間へいった。
「こんなに早く会いに来てくれたの? わざわざ私に会いに?」
ヴェルシーの顔を見て、思わず抱きしめようとしたけど――
両手でぴたりと阻止された。
「もう昼は過ぎてるよ。君が寝すぎなんだよね」
「えっ?」
「それに、君のところに来たのは書類を届けるついでだからね。
僕はもう規制を解かれたし、家にいるから、
君が都合のいいときに来ればいいよ」
さらりと言い放つヴェルシーに、私は少しだけ唇を尖らせた。
「私の姉さまたちに会って行かない?
ちゃんとヴェルシーのことを紹介したいし。ねぇ、いいでしょ?」
ヴェルシーは一瞬考え込んだようだったけど、私の強引さに負けたのか、
ため息をつきながら頷いた。
ヴェルシーを私の寝室へと連れて行った。
碧り佳姉さまは少し緊張していたものの、完璧な挨拶を交わして、
深る雪姉さまは今までにないほどの笑顔を見せていた。
どうやら碧り佳姉さまが緊張しているのは、
ヴェルシーの帝国での地位を知っているみたい。
……私も帰って来てから知ったけど、そんなにすごいの?
ヴェルシーは、さらりと言った。
「今はもう、特別枢密顧問官の地位を解任されたからね」
――つまり、今のヴェルシーは帝国の一般人という扱いになるらしい。
なので緊張するのはヴェルシーの方でもおかしくはなかったけど、
トール国の第三王女である碧り佳姉さまに対しても、
いいや、第一王女である私にさえ、
くだけた言葉遣いをすることに何の躊躇もないのだから、
ヴェルシーに配慮することもないかな。
それから姉さまたちは、「新しい妹ができたみたい」と言って、
ベッドの上でヴェルシーを囲んで会話を楽しんだ。
深る雪姉さまは私に向かって、
「瑠る璃ちゃんに妹ができたみたいだね」
と微笑んでいたけど、
ヴェルシーの方が年上だと知ると、驚いたように目を丸くしていた。
「えっ、年上なの……?」
その後、さらにじっくりとヴェルシーを見つめ、
「これが魔法使いの“力”なのかしら……」
と、妙に感銘を受けたようだった。
――そう言った楽し気な会話が続いたがいつの間にか時間が過ぎていた。
「そろそろ帰るよ」
ヴェルシーがそう言ったので、私は見送りがしたくなって、
姉さまたちにも手伝ってもらって急いで着替えた。
だけど、もたもたしているうちにヴェルシーは先に出て行ってしまって、
私は慌てて追いかけてった。
ちょうど城の正門で追いつくと、
特別なふわりん、戦闘型が停まっているのが見えた。
ヴェルシーは小窓から手を振って、「またね」と言ったのだろう。
だけど、厚い装甲越しでは彼の声は聞こえなかった。
そのまま、ふわりんは静かに宙へ浮かび、ヴェルシーを乗せて去っていった。
――でも、いい。私も謹慎が解ければ、また会いに行けばいいのだから。
――だけど……そのあと母さまに自分の部屋から出た事を怒られて、
謹慎を解かれるにはしばらくあとになった……。




