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彼女の∞と私の零と  作者: イニシ
第四章:触燃リン界

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064話:これは家出じゃないからね

「ほら、もうすぐ『蝕界』が来るから、着替えたらベッドの上にいましょう」


碧り佳姉さまは、いつものようにきちんとお菓子を用意してくれた。


深る雪姉さまは、もともと『蝕界』への耐性が低いのか、

昼間でもすぐに眠くなってしまう。


私も眠り絹に着替えると、すでにまぶたが重そうな深る雪姉さまが、

「瑠る璃ちゃんの寝衣、すごくいいよねー」と褒めてくれた。


でもそのまま、私の腰に手を回して抱きしめるようにして眠ってしまった。


大きめの『蝕界』が来るからといって、寝るの早すぎるのでは?

そう碧り佳姉さまと話しているうちに――静寂が降りて来た。


音もなく、『蝕界』は時間通りにやってきた。

早めに眠ようと目を閉じ、何も考えないでいたら、すぐに睡魔が襲ってきた。


――だけど、どのくらい経っただろう?また目が覚めてしまった。


姉さまたちは、完全に眠っているようだった。


『蝕界』に耐性のある私には、問題なく”闇”が見えた。

今まで見たことのない”闇”のゆらぎさえ、はっきりと――

毎晩気になっていたのは、このことだったのかな?


天蓋をそっと開け、ベッドから降りる。

どこでもない場所を見つめていると、

限りなく細い糸のようなものが、漂っているのが見えてきた。


その糸はとても細い。私の呼吸だけで、どこかへ飛んでいってしまいそうだ。

その糸がゆっくりと私のまわりを取り囲み始めた。


なんだろう、これ?怖くはない。

それより、これは――ヴェルシーのローブと同じ?

指にまとわりついた糸の感触だけで私にはわかった。


思わず手を伸ばすと、糸は体に絡みついて来た。


するすると腕を通って体へ絡まりながら、全身へと広がっていく。


気づけば、糸は頭や顔にまでまとわりついていた。

……いや、これ、私、糸を食べてる?


糸はからだ全体になじんでいって、最後の一本が私と完全に溶け合った瞬間――

目を見張った。気づけば私は――ヴェルシーと同じローブをまとっていた。


足元には、眠り絹の寝衣が、いつの間にか静かに落ちていた。


これって……?


考えるより先に、ローブが形を変え始めた。

するすると布が動き、動きやすい軽装へと姿を変えていく。

――元々ローブだったなんて、もうわからなかった。


ズボン、シャツ、ベスト、ベルト、靴まで、すべてが揃っていた。

さらに、フードをかぶると、まるで迷彩のように周囲と馴染む。


これは……ヴェルシーに何かあったの?


私はバルコニーへ出て、帝都の方角を見た。

夜空にひときわ高く伸びる、光の柱が見えた。


今の私はきっかけが欲しかっただけかもしれない……でももう、行くしかない。


私にはわかる。今行けば、ヴェルシーに絶対会える――二回目だからね。

いざ飛び出そうとした時、ふと振り返る。

姉さまたちはまだ眠っていたけれど、私はそっと言った。


「これ……家出じゃないからね」


――心置きなく、私は帝都に向かって走り出した。

その瞬間、魔法の服が私を導くように動いた。


一足地面を蹴っただけで、勢いよく空へと弾かれた。


え?


一瞬、足元を見た。

あれ?もしかして私は――地面を蹴っていない?


少しだけど足元が浮いている感じがしたし、

これは何?見えないものを蹴っていた。


どんな魔法の効果なのかはわからないけど――

でも、その疾走感は最高だった。


ものの数分で、帝都にたどり着いた。


だけどそこには、至る所に精霊がいた。始めて見た防衛用の精霊たち――


でも、どうやら私の方が目が利くし、

この服が私の存在を隠してくれているみたい。


見つかる事はないと思う……私は、なるべく精霊に遭遇しないように進んだ。


向かう先は、以前ヴェルシーから聞いたことのある場所。

帝都の中でも、ヴェルシーが行ける場所は限られていた。


そのうちの一つ――帝国枢密院の魔法塔。

窓ひとつない黒い壁に覆われ、六角形の巨大な建造物。

魔法使いでなければ、出入りすらできない。


「そこにいるんだよね?ヴェルシー」


魔法塔の前まで来て、ようやく理解した。

「魔法使いしか入れない」の意味――


それは、入り口すら存在しないということだった。

どこを見ても、入り口がない。

壁は黒く、まるで城塞のようにそびえ立っていた。

ここまで来ると、どうしても時間が気になり始めた。


「んー、わからないよ……」


塔の天を仰いで、考える――というより、このローブに頼るしかない。


「ヴェルシーに連れて行って……」


その時だった。


黒い壁から、影が水面のように広がる。

その中心から、精霊が浮き出るように現れた。


突然に驚いて、あまりの巨大さに全体を把握するまで正体が分からなかった。


――この精霊知ってる!記憶が蘇る。


フロラ王の地下都市にいた、あの精霊!反射的に周囲を見回した。

使役する男性はいない――どこにも。それに、この精霊……傷ついている?


女神の復活は「人間だけ」だからかな?どうなっているのか分からない。

しかも、こんなに近くにいるのに、なぜか立体感がない。

まるで壁に映し出された影のようだった。


――もう、どうして?なんでもやってみればいいのよ。


迷っていても仕方ない。

思い切って壁に手を伸ばして、精霊に触れようとした。

すると、私の手が肘あたりまで、平面化した。


「……!」


一瞬、息をのむ。迷いなんて、いらない。私は、一気に全身を投げ出した。

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