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彼女の∞と私の零と  作者: イニシ
第四章:触燃リン界

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062話:姉さま達にも怒られたけど、お土産話で許してもらえたかな?

母様にどこに行っていたのかと聞かれた。


それに対して「見たこともない、知らない森だった」と答えると――

「あとで調査報告書を書いて出しなさい」と言われた。


私の中では調査に行ったつもりはなかったのだけれど……


それでも変化の激しい植物種の情報は、

この世界を守るうえで貴重なものだし――

今回のことが私への罰も兼ねていると思えば、妥当なのかもしれない。


あとは、小言を少し。それから、頭を撫でてもらった。


そして母さまの部屋を出ると、扉の前には――ガ紅お兄様が立っていた。

重厚な体つきに、無言で組んだ引き締まった腕。

その佇まいだけで空気が張り詰めた。


「あっ……」


まさか、ここで待たれているとは思っていなかった。


「ついてきなさい」


それだけ言うと、お兄さまはすっと背を向けて、私室へと歩いていった。


静けさの支配する通路。


けれど、私の心臓の音が反響しないかと心配になるほどだった。

簡素な部屋に入ると、ガ紅お兄様はその体躯に見合った大きな椅子に座る。

私は、向かいの机の椅子にそっと腰を下ろした。


「……わかっているとは思うが。国王さまは、辺境調査からは戻れない。

だから、ここにはいない」


お兄様は手を組み、静かに目を伏せていた。

どうしたものかと、言葉を選びかねているように見えた。


不在が多い父さまに代わって、私のことを見てくれているのはガ紅兄さまだ。

国王代理としての重責に加えて、

私の監督まで背負わせてしまっているのだと、ふと気づいた。


きっと……心労も多いんだろうな。だから、精一杯の気持ちを込めて言った。


「お兄さま、いつも……ありがとう。頑張ってね!」


すると、お兄様は一瞬だけ目を細めて、ぽつりと私の名をつぶやいた。


「……瑠る璃」


あきれたような、けれどどこか呆然としたような声音だった。

でも、次の言葉には優しさが滲んでいた。


「……いつの間にか、体だけじゃなく、

精神面も少しは成長しているようで……それは嬉しく思うよ」


思わず胸が熱くなった。けれどその後で、しっかりと言い渡された。


「――しばらくの間は、自室で謹慎だ」


……やっぱり、そうなるよね


――反省しながら自室の前まで戻った時には、

いつの間にか、碧り佳姉さまと深る雪姉さまに囲まれていた。


「ただいま」


そうは言っても、どんなふうに話せばいいのか困っていると、

ふたりは息を合わせたように、それぞれ片方の扉を開きながら――


「おかえりなさい瑠る璃さま」「おかえり瑠る璃ちゃん」


そう言っていつもの笑顔で、私を迎えてくれた。


いくつかの小部屋を抜けた奥にある寝室は――

私たち三人にとっての“秘密の部屋”だった。


姉様たちと一緒に、並んでベッドに腰を下ろすと、

ふわりと心地よい反動が返ってくる。

いくどとなく、こうして夜更けまで話に花を咲かせてきた。


これまで、一緒におやつを食べなかった日は、数えるほどしかなかったと思う。

けれど――そのわずかな時間でさえ、

魔法王ジの世界で過ごしていた間のように、果てしなく長く感じられた。


でもいま、こうして三人でおしゃべりをしていると、

不思議と時間の感覚が戻ってくる。


最初は、碧り佳姉さまにきつく叱られて、

深る雪姉様には心から心配されたけれど――

その言葉たちも、私の胸の奥にやさしく届いていた。


温かい夕食を皆で囲み、和やかな時間を挟んだ後にも、その話は続いた。


特に碧り佳姉さまには、フロラ王が支配する帝都を彷彿とさせる、

壮大な地下都市の話をすると、目を輝かせて聞いていたし、


深る雪姉さまには、どこにでも瞬間移動みたいなほど速く移動できて、

魔法の部屋で一緒に乗って行ける、

とてもかわいい影猫のキューちゃんの話をすると、

「私もその子に乗ってみたい」と好奇心旺盛に言われた。


でも、どうやら二人とも私の話を本気にはしていない。

”いつものお話”だと思っているみたい。


でもそれでも十分だった。

いまにして思えば夢のような体験だったし、

本当に夢になってしまうかもしれない。


それは明日起きてから考えればいいかな。


今は、このまま三人でいられる時間がいいから。

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