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彼女の∞と私の零と  作者: イニシ
第四章:触燃リン界

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061話:兄様と一緒に帰ったよ。怒られなかったよ?

意外と他世界は近所なのかもしれない――

そんなことを思っていると、ヴェルシーが言った。


「どんな地形でも関係なく移動できるのは、キューちゃんのおかげだよ。

本当なら、歩けば数年かかる距離だったかもよ」


私は「なるほど近いわけだ……」と、ひとりごとのように呟いた。


今になって、ようやく納得した。そういえば最初、

ヴェルシーは歩いて帰ろうとしていたような……いや、まぁいいか。


ここには土の匂いがあって、風に揺れる木々の音がする。

そして、いつもの場所に輝く太陽。

どれも、とても気持ちいい。私は大きく伸びをした。


そのとき――視界の端で何かが動いた気がして、思わず足を止めた。


目を向けると、そこには人影が見えた。

後ろにいたヴェルシーも、同じように立ち止まって、その影を見ていた。


木の陰から、迷彩柄の服を着た男が姿を現した。

細身で長身、立派な髭を蓄えている。


「もう帰ってきたのかな?」


優しい笑顔が、まっすぐこちらを向いていた。

私はちょっと照れながら、その人に向かって駆け寄った。


明リディ水メリディス兄さま、ただいまです。

……あの、やっぱり知ってましたの?」


「それはそうだろ。一週間もいなくなれば、全国民が心配するさ」


「えっ……」


たったの一週間!?


思わず口を開けたまま固まってしまった私を見て、兄さまは楽しそうに笑った。


「あちらにいるのが、お友達だね。挨拶させてもらうよ」


そう言って、兄さまは私の頭を撫でてから、

ヴェルシーの方へ歩いて、目の前でお辞儀をした。


「トール軍副将、明リディ水と申します。

あなたは――枢密顧問官、ヴェルシー閣下でいらっしゃいますか?」


ヴェルシーは、こくりと頷いた。


「ヴェルシー閣下。突然のご連絡、大変恐縮ではございますが……

我が妹姫・瑠る璃誘拐の容疑で、逮捕状が執行されております」


「……うん。わかっているよ」


……え?私はわかっていないよ?


……なにそれ、全然聞いてないんだけど……?


私は突然のことに、ただ立ち尽くしていた。

だけど、兄さまが腰から手枷を取り出すのを見た瞬間、

なにかがはじけたように声が出た。


「だめーっ!」


それだけだった。

でも兄さまは、私の方を振り返りもせず――静かに手枷を腰に戻してくれた。

私は急いでヴェルシーを抱きしめた。


ヴェルシーが私の耳元でそっと囁いた。


「しばらく会えないって言ったでしょ。だから、待っててね」


泣きそうになる私を、ヴェルシーはそっと押しのけた。


気づけばヴェルシーは兄さまの護衛たちに囲まれていた。


私が最後に見たのは、私に向けてくれた笑顔。

連れられていくヴェルシーを見送ると、残ったのは兄様だけだった。


私は少し落ち着いたものの、どうしても納得がいかなかった。


「ヴェルシーは、私を誘拐なんかしてないよ!」


兄さまはしっかりと私を見つめて言った。


「わかっているよ」


その優しい言葉に、私はもう何も言えなくなった。


「久しぶりだな、会うのは。半年ぶりくらいか?」


そう言いながら、兄さまは私の顔を撫でてくる。


「会わないうちに、ずいぶん大人になったな。

……泣かなくても大丈夫。これはただの形式だ」


「別に泣いてませんけど?」


そう返しながら、私は少し安心していた。


「じゃあ、母上に会いに行こうか」


「えっ、お母さま、今いらっしゃるの?――どうしたらいいかな?」


「ん……?あきらめろ」


はぁん、と深めのため息をついた。どうやら助けは見込めないらしい。

でも、肩を抱きながら一緒に歩いてくれるその温かみが、

十分すぎるほど私を助けてくれていると思った。


そしてずっと歩きながら、どこに行っていたのか、

動植物種などに襲われなかったかと聞かれるだけでなく、

もしもの時の対処法や実戦向きの知識まで教えてくれた。


……これって、今後も家出すると思われてる?


それに、どんな話をすればいいのかわからなかったので、

無難な話しかしなかったけど、

いつかは私が体験したすごいことを、父さまと兄さまたちとで話したいな。


――久しぶりに長く話しているうちに、

周囲には私に声をかけてくれるトール国民の姿が増えていた。

手を挙げ兄さまと一緒に応えた。


最近は城の外へ出ることも少なかった私は、

出会う一人ひとりが「自分はこの国の姫なのだ」と思い出させてくれる。


……だけど、若冠の儀(準成人式)すら迎えていない私に、

特別な立場なんてないから、

結局いつも最後には「どうしたらいいのか」わからなくなってしまう。


――いつも、同じだ……

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