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彼女の∞と私の零と  作者: イニシ
第四章:触燃リン界

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058話:魔廃人カードゥはすごく強い

外へと放り出された私は、転がりながらも立ち上がった。

痛い……片目が見えない。

私の上半身の半分は、炭化した皮膚からも血が流れていた。

それでも、ヴェルシーのもとへ歩いた。


周囲は、すべてが焼け落ちていた。

植物種すら燃え尽き、

地面も岩も焦げついて、至るところから煙が立ち上っている。


ヴェルシーは倒れ込んで、動かない。


魔廃人カードゥは、まだ膝から下が残り、くすぶりながら燃えていた。

だけどその脚を空からの光が照らしていた。


私は急いでヴェルシーに倒れるように駆け寄った。

彼女の頭を膝の上に乗せる。

ヴェルシーは目を閉じたまま、小さくつぶやいた。


「まけちゃった……」


その声は、小さくて、でも痛いくらいに響いた。


それから、私に抱きつく。


……泣いている?


でも、顔中を覆う大量の血で、それすらもよくわからなかった。


――魔廃人カードゥは、そこに立っていた。

こちらを見ているようだった。


でも、そんなことはどうでもよかった。


私は、ただヴェルシーを抱きかかえようとした。

その時――ヴェルシーがゆっくりと立ち上がった。


そして、魔廃人カードゥに向かい、――何かを言った。

それは、言葉なのか?私には聞き取れない、

意味を持たない音にも聞こえた。それなのに――。


「そっ、それはずるいですねぇ」


魔廃人カードゥは、肩をすくめるように笑う。


「アタクシに、勝った気持ちよさを味わわせてくださらないなんてぇ」


「そんなことはどうでもいい。瑠る璃から治せ。絶対命令だ」


「もう、信じられない!立場が逆転したからって……いけない言葉使いよ」


「わかったから、早く!」


ヴェルシーは苛立ったように言い放つ。

すると、魔廃人カードゥはくすりと笑い、ゆっくりと両手を掲げた。


「大丈夫よぅ。みーんな一緒にいきますわよ」


魔廃人カードゥの言葉とともに、足元から淡い光が溢れ出す。

気づけば、私たちを包むほどの巨大な魔法陣が浮かび上がっていた。

それは、どこまでも広がり、全景などとても見えなかった。


私は、魔廃人カードゥを睨むように見つめた。

視線が合うと、彼は微笑んでいた――

だけど、その表情はすぐに無表情へと変わった。


「その綺麗なお顔をそんなふうにしたの、アタクシじゃなくてよ? 怖いわぁ」


――どんな怪我をしても、ここまで痛みを感じたことはなかった。

だけど、それも一瞬だった。急速に癒されていく。

右目からの視界が戻った。ちゃんと今まで通り見える。


ヴェルシーを見ると、あれほど出血していた額も、

まるで何事もなかったかのように元通りになっていた。

それどころか、衣服にこびりついた血さえ、

身体に吸い込まれるように消えていく。


「ヴェルシーちゃん、これでわかったかしら?

新神の力って、馬鹿にできませんことよ?」


魔廃人カードゥは、今までの覇気をなくしていた。

――それでも、嫌味だけは言う気力が残っているらしい。


「今はね……」


ヴェルシーは、無表情のまま淡々と返す。


「――これから時を動かすから、

あんたも手伝うんだよ。魔法王ジさまの命令だと思ってね」


ヴェルシーの言葉は冷たいが、どこか意地悪な響きを含んでいた。

魔廃人カードゥは光が消えた空を見上げ何かを考えていた。


ヴェルシーは私と一緒に魔掌ルド、

そして魔法生物キューちゃんのもとへ歩いていた。


そして、後ろから、魔廃人カードゥが無言でついてきた。


魔法生物キューちゃんは、大型の猫ほどの大きさのまま、

その姿をはっきりと見せていた。

魔掌ルドさんに喉を撫でられ、気持ちよさそうに目を細めている。


そこへ――魔廃人カードゥが近づくと。

「シャーッ!」 と鋭い威嚇の声が響いた。


「おやおや……。アタクシが、そんなに嫌われてますの?」


魔廃人カードゥは、わざとらしく肩をすくめる。


私は、それを横目にキューちゃんをそっと撫でてみた。

影猫の体毛――それこそ、まるで影のように揺らいでいる。

けれど、触れることができた。


「尾っぽだけは触らないでくださいね」そう、事前に釘を刺されていたので、

それ以外の部分を存分に撫でまくる。


すると、キューちゃんは満足げに「ゴロゴロゴロ……!」 と喉を鳴らした。

その音は、低く、大きく、体の奥から響いてくるようだった。


なついてくれた――そう思った矢先。


キューちゃんの体毛が、ゆっくりと伸び始めた。

影が、地面を這うように、空を覆うように、どんどん広がっていく。


まるで、キューちゃんの存在そのものが影に溶けていくように――

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