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彼女の∞と私の零と  作者: イニシ
第四章:触燃リン界

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057話:魔法生物キューちゃん熱かった?ごめんね

私は、闇の中で、ふと考えていた。


ここは、魔法生物キューちゃんの“正規の入り口”かな?

それとも――いつものように、食べられている最中なのかな?


……そんなことを考えているうちに、

私はいつもの眩暈もなく、すでに乗っていた。

やったぁ!


見晴らしの良い、円形のフロア。外の景色は、もう流れ始めていた。


フロアには、いくつかの円形のテーブルが並んでいた。

そのうちのひとつに、ヴェルシーはすでに座っている。

ただ――私には問題が……、 いや、“私たちの”問題と言うべきか。


少し離れたテーブル――そこに魔廃人カードゥが座っていた。


こちらには全く気を払わず、何か思索しているように外を眺めていた。

私は心配になりながらヴェルシーに近づいたけど、

彼女はすぐに「問題ないよ」と言ってくた。

そのまま隣の椅子を引いて、ヴェルシーにぴったりとくっつくように座った。


――風景だけが流れる中で、ガチャ、と扉が開く音がした。


魔掌ルドさんが、飲み物とケーキを運んできてくれた。

おかげで、少しだけ緊張がほぐれる。

もっと気楽になりたくて、私はすぐにケーキを手に取り、一口頬張った。


ヴェルシーが、私の耳にそっと顔を近づけてくる。


「あとで、あいつをやっつけるから」


小さく、淡々とした声。


……え?あとって、いつ? やっつけるって、大丈夫なの?

でも――この中ではないみたい?


この事を知っているかどうか確かめようと、魔掌ルドさんを見た。

すると、彼は落ち着いた声で答えた。


「なるべく害のない場所で、ということでしたので……もうすぐ着きます。

瑠る璃さんは、ここで見ていてください。一番安全ですから。

どうなるか私もわかりません」


魔掌ルドさんも心配そうだ。どうなっちゃうんだろう?

そう思っているうちに、目的地へと到着したようだった。

ヴェルシーと魔廃人カードゥが、別の扉から外へ降りていった。


――外には、植物種がほとんど生えていなかった。岩と土ばかりの荒れた大地。


こんなことがなければ、開拓地として十分に入植できそうな土地だ。

……でも、ここはどこなんだろう?太陽の位置を頼りに、

なんとなくの場所はわかる。でも、私には細かいことまでは判断できなかった。


そんな場所で、戦うの?以前のようにはならないとわかる。

でも――やっぱり、心配だ……


ヴェルシーと魔廃人カードゥは、同じ方向へ歩いていった。

やがて、カードゥがぽつりと語りかけた。


「魔法王ジさまにお会いしたのでしょ? いいわねぇ」


仕草だけで、羨ましがっているのが伝わってくる。

でも、ヴェルシーは何も言わない。

無言のまま、二人はどんどん遠ざかる。

気づけば、彼らの姿は声が届かないほど小さくなっていた。


私が「どうなるんだろう……?」と考えているうちに――

もう、始まっていたようだ。


二人が向かい合い睨み合った。


私が始めにわかった事は――

魔廃人カードゥが振り上げた腕が――肘から先が、跡形もなく消えた。


いや。それは焼かれ、千切れ、吹き飛んだ。

そして、その腕は灰となって――灰すらも、光となって、消えていった。


次の変化は空からの光だった。


傾いた太陽の光じゃない。


より強力な光が魔廃人カードゥの真上の空から降り注いでいる。

肘先の衣装は戻っていない。だけど、完全に消失していたはずの腕が、

まるで再生するかのように生えてきた。


隣で一緒に戦いを見ている魔掌ルドさんが、小さく息をのむ。


「……すごいですね、お二人とも」


静かな声。だけど、どこか興奮が滲んでいる。

魔掌ルドさんは視線を外さぬまま、私に説明してくれた。


「あれほどの魔法が飛び交っているのに、

こちらに影響が及ばないようにしてくれています。これは驚くべきことです」


一瞬、言葉を区切り、考えるように口を閉ざす。


「私が知っている魔廃人カードゥは、

これほど強大ではありませんでしたし……」


魔掌ルドさんは、じっと戦場を見つめたまま、さらに続ける。


「そして、ヴェルシーさん……彼女の魔法は――」


言いかけて、少し口を引き結んだ。


「私が今まで見た中で、これほど純粋な魔法を使う人はいません。

まるで……魔法王ジさまのようです……」


私も、魔掌ルドさんも、目を離すことができなかった。

ヴェルシーが、右手を前にかざしながら、

一歩、また一歩と魔廃人カードゥとの距離を詰めていく。


その魔廃人カードゥの足元に、瞬時に光の魔方陣が描かれる。

だけど――ヴェルシーが近づくたびに、結界はひび割れ、ねじれ、歪んでいく。


それだけじゃない。

私の目に映る、二人の背景すらも――空間そのものが、よじれている。

地平線が、まるで液体のように揺らいで、曲がりくねっていた。


ヴェルシーと魔廃人カードゥの間には、結界の光がただ一粒だけがあった。


その刹那――魔廃人カードゥが両腕をヴェルシーに突き立てる。

だけどカードゥの両腕は、私がわからないうちに再び消え失せた。


ヴェルシーの指が魔廃人カードゥの胸に触れた。

その場所から――ゆっくりと焼かれて灰が広がっていく。


それらは、まさに同時だった。


ヴェルシーの額が裂けた。赤い雫が、弾けるように流れ落ちる。

瞬く間に、大量の血が彼女の顔を覆い尽くした。


時が――止まったようだった。そして、私の心臓も止まった。、


「あっ……!」


魔掌ルドさんの声がした。私をかばおうとする動き。

部屋のすぐ外から闇が降りてくる。


でも――私は、まだ見ていた。

かばわれなかった片方の目で、しっかりと見ていた。


闇が、燃えている。きっと、この部屋も燃えているかもしれない。


私の目が焼き尽くされるまで――私はヴェルシーを見つめていた。

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