055話:動かし方を知りたいな
慌ただしくなった外を突き抜けて、
私たち四人が洞窟の中へ入ると、突然に背後で扉が閉まり始めた。
岩同士がぶつかる鈍い音。その衝撃で、多くの小石がぱらぱらと落ちてくる。えっ……?思わずルクミィさんの方を見る。
すると彼女は、「私ではない」と手振りで教えてくれた。
完全に扉が閉まると、あたりは闇に包まれた。
だけどすぐに、ルクミィさんがいつも腰に付けているランタンに、
橙色の明かりが灯た。
探検家クロノークさんも慌てて荷物を探り、ランタンを取り出した。
黄色い火がぼんやりと灯り、周囲の壁を照らし出した。
「なぁ、君たち……」
クロノークさんの声には、わずかに緊張が滲んでいた。
「冗談ならやめるんだ。ここなら、援軍を待つまでの時間を稼げるだろ?」
探検家クロノークさんは、じっと私たちを見つめた。
私たちは――みんな真剣だった。
一瞬の沈黙のあと、彼は困惑したように呟いた。
「……まさか」
探検家クロノークさんは、疑うように呟いた。
だけど、その目には恐れよりも、困惑の色が浮かんでいた。
無理だとわかっているはずなのに――
それでも彼は、素手でこの巨大な岩の扉を開けようとしていた。
一度目を離せば、どこにあるのか、わからなくなるほどの扉の合わせ目。
ただの巨石の壁に、指を突き立てるだけだった。
探検家クロノークさんは、しばらく無言で岩を押したり、
なぞったりしていたけど――やがて、ため息をついた。
……諦めたのだろう。
探検家クロノークさんは私たちが“悪魔”だとは、
本気では思っていないようだけど。
その理不尽な苛立ちは、行き場を失い、私たちへと向けられていた。
ルクミィさんが、ふと「あれ?」とつぶやく。
「えーと……これって、逆予言かしら?
もしかして、私たち封印されちゃったとか?」
「なぁ、ルクミィ君……どうしたらいいんだ? 俺は……」
探検家クロノークは、混乱した様子でルクミィさんを見つめる。
「落ち着いてくださいね」
ルクミィさんは、静かに微笑んで言った。
「そうですね……古くからの預言書などは、無視するのが一番なのですが……。
あなたたちは、個別に発生している事象を、繋げて考える癖がありますからね」
クロノークはまだ困惑しているようだったけど、ルクミィさんは淡々と続けた。
「まぁ、実際には千を超える“予言”という事象が、昔から動いているだけです。
例えば、“星が落ちると災厄が訪れる”という予言があったとしても、
それはただの周期的な現象ですので」
私は、人だからわからなくても当たり前。少しホッとした。
つまり、この扉が閉まったのは――偶然。たまたまだったのよね?
……あれ? そうなると――私がここに入ったのも、
偶然?そんなはずない……よね?じゃあ、私どうしたらいいのかな?
探検家クロノークさんは、ヨロヨロと歩くと、
疲れ切った体を休ませる為に寝転んだ。精神的にも、限界なのだろう。
「君たちは、余裕があるな。関心するよ」
ぼそりと呟くように言うと、
探検家クロノークさんはルクミィさんへと視線を向けた。
「ルクミィ君に、君たちはどこから来て、どこへ行くのか聞いたが……
俺には、さっぱりわからなかったよ」
……それは、私もわからない。
なぜここにいるのかも――けれど、偶然だとは思いたくなかった。
「君たちの世界は、すごいんだろうな……」
その言葉は、羨望にも聞こえた。
そう呟いた探検家クロノークさんを見て、私はふと、”彼を助けたいと思った”
――その時、地面が揺れた。
いや――洞窟全体が揺れていた。あちこちから、岩が崩れ落ちてくる。
つなぎ目が見えなかった扉の片側が、軋みながらずれていった。
だけど――私たちの上には、一つの岩も、小石すらも落ちてこない。
これは、予言でも偶然でもないはず。
――ヴェルシーがやってくれている。ありがとう。
探検家クロノークさんは、慌てた様子で立ち上がると、
揺れが収まったのを確認して、ズレた扉から外へと駆け出した。
私の場所から入った外の光景だけでも、ひどい惨状が見えた。
だけどよく見ると――死んでいる人は一人もいない。
それどころか、先ほどまで戦っていたはずの敵同士の人たちが助け合っていた。
見るからに敵同士だった者たちが、今は互いを支え合っていた。
……これ、すべてヴェルシーが計算していたのかしら?
そう考えて、振り返って彼女を見た。
――けれど、ヴェルシーは、まるで知らんぷりだった。
探検家クロノークさんが再び駆け戻ってきた。
ズレた扉の隙間から、私たちを見る。
――いや、どうやら、彼には私たちが見えていないようだった。
「ありがとう、ルクミィ」
そう言い残すと、探検家クロノークさんは再び仲間の救助へと向かっていった。
わかってはいたルクミィさんが、小さく微笑みながら言った。
「ここは幻影もかけやすいですし、いいマナが流れてますね」
ルクミィさんも、私も――まあ、私は何もしていないけど――
この世界での出会いがよかったと思っていた。
だけどヴェルシーだけは違う様子で、ぽつりと呟いた。
「やっぱり……止まっているから、動かないや」
独り言のようだった。
ヴェルシーの呟きを聞いて、
私はふと、彼女の言う“止まっている時”が何を指しているのか考えた。
ねぇ、もし時が動いていたら、この世界はどうなっていたの?




