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彼女の∞と私の零と  作者: イニシ
第四章:触燃リン界

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054話:争いはどこの世界にもあるね

この世界では、どんな食べ物が出てくるのかしら?

他世界の料理は、私の世界と似ているようで違う感じかな?

美味しさはもう決まったものだよね?


「ヴェルシーも食べるよね?」


そう言いながら、私は彼女の顔を覗き込みながら、

「ねぇねぇ、知ってる?」と声をひそめて、ちょっといたずらっぽく続ける。


「美味しいからって、たくさん食べると……実は眠くなるお薬が入ってて。

目を覚ますと――ほら、知らない場所にいるってやつ!」


私がそう言う話があるよねと言うと、

ルクミィさんがくすくすと笑い、

ヴェルシーは無表情で私を見た。


でも――今の私は、

たとえ幽閉されたとしても、楽しい気分でいられる気がする。


「早く来ないかなー。楽しみだね、ルクミィさん!」


私につられて、ルクミィさんも笑う。


でも……もし魔掌ルドさんが“今”来てしまったら……?


少しだけ待っててもらうとか?

それとも、またパクッと魔法生物キューちゃんに食べられて、

あっという間に家に帰るのかもしれない。


うーん、ちょっと悩むけど――どちらでもいいかも。

――今は、どちらでも。


……あっ、来たようだ。

でも、これは魔掌ルドさんじゃない。


谷全体に、低く響き渡る重い音。それに混じって、鋭く突き抜ける笛の音。

ただならぬ事態が起こっている――そう直感するのに、時間はかからなかった。


テントの外では、大勢の人々が慌ただしく行き交っている気配がする。


「瑠る璃さま、ヴェルシーさま」


ルクミィさんが低い声で言った。


「先ほど聞いたのですが、この世界で続いている彼らの戦争だと思います。

わざわざ教えてくださっていたので――

もしかして、この世界では恒常的なものかもしれませんね」


彼女の言葉に、私は思わず息をのむ。


「原因は、この谷にある巨大な扉には悪魔が封印されていて、

それが解放に向かっているとされているのに……

国の中で意見が対立してしまい、

ついには武力衝突にまで発展したのだとか」


もしかして、私たちがもめごとの原因と言う事なのかな?

関係ないよね?不安を感じていた、


突然、探検家クロノークが、息を切らせながらテントへと飛び込んできた。

手には、大きな荷物。


「お嬢さんがた、すまないが――」


彼は一拍息を整えると、真剣な目で私たちを見た。


「急いで谷を出ないといけない。とりあえず、ついてきてもらいたいのだが」


探検家クロノークは、

私たちにとっては関係ない、争いに巻き込まれている事なので、

無茶な要求をしていると十分理解しているようだった。


――時間がない。


だから、もし拒否されたら――力づくでも連れて行くつもりだっただろう。

そう切迫した雰囲気がただよっていた。


「はい、行きますよ。」


私は迷うことなく、すぐに歩き出した。

探検家クロノークは一瞬、拍子抜けしたような顔をしたが――

すぐに、短く笑って頷いた。


私は幼いころから、緊急事態への対処を教わっていた。


植物種は、一瞬にして国を滅ぼす力を持っている。

それに、植物種に操られた獣種ですら脅威だった。


――彼らは、待ってはくれない。

探検家クロノークさんの表情は、演技ではないと思う。

時間を無駄にせず、それで争いが避けられるなら、問題はない。


それに――もし私が間違っていれば、ヴェルシーが止めてくれるだろうし、

ルクミィさんだって助けてくれる。


テントの外をちらりと見ると、

わずかに覗く空が、焼けたような赤に染まっていた。

もうすぐ太陽が欠けて、夜になる。


探検家クロノークさんは、手際よく私たちと一緒に馬車へと乗り込んだ。


奇妙な装置がついていて、動物種に引かせている……ふわりんみたいだ。


……あれ、出発しない?そう思った瞬間、馬車の横へ兵士が駆け寄ってきた。


「ダメです!」と鋭い声が響く。探検家クロノークさんが、

馬車から身を乗り出し、前方の様子をうかがっている。

その時――私に、ひらめきが降ってきた。


「ヴェルシー、ルクミィさん。あの扉の中って、どうなっているの?」


二人がこちらを向く。私は続けた。


「……あの扉に入ろうよ」


……奥はどうなっているかわからないけど、

ルクミィさんなら扉を閉められるよね?


「いいね、瑠る璃」


ヴェルシーは少し考えたあと頷いた。


「戻っても大丈夫じゃないかな」


――あの洞窟に戻ることになっても、問題はなさそうだった。


「まっ、まっ、待ってくれ!」


探検家クロノークが、私たち三人を見ながら大慌てで手を振る。


「ちょっとな……」


戸惑いながらも、彼は焦った様子で言葉を探していた。


「まず、確認に行くから待ってくれ!」


そう言われたので、私は素直に「はい」と返事をした――


だけど……もちろん付いていった。


探検家クロノークが前を向いた途端に、

私はルクミィさんとヴェルシーと一緒に、彼の後ろへと続いた。


彼は振り向き、私たちを見た。


……でも、時間がもったいないと思ったのか、

そのまま何も言わずに扉へと入っていった。


私たちと一緒に――。

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