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彼女の∞と私の零と  作者: イニシ
第四章:触燃リン界

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053話:ルクミィさんの信号、届くといいな~

探検家クロノークは、「ちょっと夕飯が何になるか見てくるよ」

と立ち上がって軽く笑いながら出て行った。


そう言って、さりげなく席を外したのは、私たちだけにしてくれたのかな?


「ねぇ、ヴェルシー。家に帰るんだよね? 帰れるの?」


私の右隣にいるヴェルシーに顔を寄せて、そう尋ねてから、ふと気づく。


「――そうだ、なんで帰ることにしたのかも、まだ教えてくれてないよ?」


ヴェルシーは少し微笑んで、静かに答えた。


「”今は動いていない時”を、動かしに戻るんだよ」


そう笑顔で私を見つめるけど、やっぱり意味がわからない。


「時が動き出すと、どうなるの?」


たまには粘って聞いてみたいと思った。いいことがわかるかもしれないし。


ヴェルシーは少し目を細めて、どこか嬉しそうに言った。


「どんな魔法でも、使えるようになるんだよ」


――そうか。ヴェルシーは、それが夢だったもんね。

よかったね。――それが私の限界だった。


私の左隣にいる、ルクミィさんも家に帰ると言っていたけど、

本当にちゃんと帰れるのかな?

少し気になって、隣にいたルクミィさんの服をそっと引っ張る。


「ねぇねぇ、ルクミィさん」


私が顔を上げると、ルクミィさんは優しく微笑んだ。


「瑠る璃さまが私を必要としている限り、私はここにいますよ」


そう言いながら、ルクミィさんは私の頭を優しく撫でた。


……頼りになる、お姉さまだ。


「ルクミィさん、この世界のことも知ってるの?」


そう尋ねると、ルクミィさんは少し考えてから答えた。


「情報だけは少しありますよ。実際に来たのは、これが今回が初めてですね」


なるほど――二人は何でも知っているみたいだし、

このままついて行けば問題ないかな?

そんなことを考えながら、ふとテントの外を見に行こうと立ち上がろうとした、


その時――


ヴェルシーが私の肩にそっと手を置き、軽く押さえられて。

「瑠る璃、もう行こうか?」ヴェルシーが静かに声をかける。

もしかして、退屈になったのかな?


そのヴェルシーの言葉に、一瞬「どこへ?」と思ったけれど、

もちろん答えは一つだった。そうだよね、家に帰るのだった。


それを見たルクミィさんが聞いてきた。


「はい、ヴェルシー様。少しよろしいですか?」


ルクミィさんは、少し真剣な表情で続けた。


「私が計算したところ、瑠る璃さまの世界まで徒歩で向かう場合、

かなりの時間を費やすことになります。

ですので――魔掌ルドさまに連絡しようと思います」


「えっ?」


思わず驚きの声をあげる。

ルクミィさんは、魔掌ルドさんのことを知っているの?


私は驚いて、なんでも知っているルクミィさんを見た。


なぜ知っているのか聞いてみると、どうやらルクミィさんは以前、

魔賢人フェプス老から教えてもらったらしい。


……そうか、魔賢人フェプス老は”あの”世界の事なら何でも、

知っていたんだよね……消えちゃったけど。


他にも、魔廃人カードゥ。そして、名前しか情報がない魚洞魔ルエ。


これら三人は、魔法王ジの世界には存在しない、いわば「外の存在」だった。

そのため、彼らは“放浪魔法人”と呼ばれているらしい。


「魔掌ルド様は、特に有名な魔法人ですね」


ルクミィさんはそう言いながら、続けた。


「とはいえ、こちらから信号を送る事はできても、

向こうが信号を受け取って来てくれるかどうかはわかりません。

ある程度、近くに来てくれればわかるのですが……」


なるほど……。


私たちが、魔掌ルドさんと別れたのはどこだったんだろう?


どこへでも行けると思っていたし、

植物種の森の中や地下を移動していたから、

太陽がどこにあるのかさえわからなかった。


「……あの、ヴェルシー様は、どのように帰るつもりでしたか?」


ルクミィさんが、ふと問いかける。


「方向はわかっているし、歩けば着くと思う。

でも、そんなに時間がかかるかな?」


ヴェルシーは、しばらく沈黙したあと、ふっと笑って言った。


「ルクミィの方法でやればいいよ。

僕は、時間がかかってもいいと思っていたよ、

止まっている時間に意味はないからね」


ルクミィさんは「なるほど!」と小さく頷くと、すぐに準備を始めた。

ソファから立ち上がり、

手を動かしたその瞬間――キィーン、と鋭い音が響いた。


間近で見ていると、ルクミィさんの剣がいかに異質なものかがよくわかる。

どこにも厚みが感じられないほど、全てが極限まで薄い。

そして、彼女は腕をしならせると、その剣を放った。


ッ――。


次の瞬間、天井の布が切り裂かれていた。

だけど、その一瞬を見ていたはずの私ですら、

切られた跡も音もまるで認識できなかった。


ルクミィさんは、そのまま腕を掲げたまましばらく静止していると……

いつの間にか、剣が彼女の手の中に戻っていた。


天井を切ってから戻ってきたよね?

それなのに、切り跡はどこにも見当たらなかった……。


「信号は送りました。魔掌ルド様が来るまで、

定期的に送るので大丈夫だと思います」


ルクミィさんは淡々とそう言うと、少し微笑んで続けた。


「それに、魔掌ルドさまの運輸業は速いと聞いていますから。

きっとすぐです!」


――運輸業?


「あの方のお仕事は、災害を運ぶ事なんですよね。

その運ぶ魔法人たちも、今は魔廃人カードゥ様しかいないですけど……」


ルクミィさんの言葉を聞きながら、私は考えた。

魔法人を"運ぶ"……?

魔法人じゃないけど、ヴェルシーと私を運んでくれたのは良かったのかな?


色々な人に出会って、

魔法人としては少し変わった存在になってしまったのかもしれない。


でも……私にとっては、

とてもありがたい人と、かわいい猫ちゃんだけどね。


「また会えるといいなー」


「会えますよすぐに」


ルクミィさんはいつも優しい、私も彼女のようになりたいな。

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