表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女の∞と私の零と  作者: イニシ
第四章:触燃リン界

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/179

052話:別の世界のお菓子はおいしいね

「まさか、この可愛い子らがあの悪魔というのですか? ありえませんよ。

そもそも、悪魔なんて迷信ですからね」


ハッハッハッハと豪快に、笑いながらそう言うと、

飾りのない柔らかな服を着た男性は、ルクミィさんの横へと歩み寄って来て、

握手を求めるように手を差し出した。


ルクミィさんはその手をじっと見つめ、

少し考えたあと、ゆっくりと握り返した。


「どうも、お嬢さん。俺はクロノーク、探検家クロノークだ。

そちらは妹さんたちかな?」


そう言って、クロノークはヴェルシーにも握手を求め、手を差し出した。

ヴェルシーは一瞬ためらったようだけど、

直接ではなく、ローブ越しにその手を取っていた。


次に、私の前に差し出された手。

握りと、その分厚い手のひらと温かい感触が、兄たちを思い出させた。


クロノークはここにいる全員に聞こえるよう、大きな声で言った。


「とりあえず、こんな場所では落ち着かないだろう。

俺のキャンプで話を聞きますか」


そう言ってから、私たちに振り返り、にこやかに続ける。


「まあ、あの者たちは気にしないで。

お茶とお菓子も用意するから、食べなさい」


私は、それで私たちを釣るつもりなのかと思った。

でも……釣られてみるのも悪くないかも……

どうやら、ヴェルシーとルクミィさんも乗り気なようだ。よかった。


探検家クロノークさんは、私たちをエスコートしながら、

ルクミィさんと話している。

内容までは聞き取れないけれど、

彼女はこの世界のことも知っているのかも?


軽装の戦士たちの横を通り過ぎると、彼らはじっと私たちを見つめてくる。

私も見返してみると、何故か中には驚いた顔をする者もいた。


悪魔って、一体どんなものなんだろう?まさか、

魔法人のことを指しているのかな?

まあ、今は黙っていたほうがいいだろう。

そう思って、ヴェルシーを見ると、彼もちらりと私を見て小さくうなずいた。


谷底の道はいくつにも分かれていたけど、そのほとんどが狭く、

岩壁に杭を打ち込んでテントを張っている場所もあった。

やがて、私たちはそのうちの一つのテントへと案内された。

中に入ると、足元には立派な絨毯が敷かれていて、

ランプの柔らかな光が揺れていた。そこはまるで一つの部屋のようだった。


集まっていたのは、私たち三人と探検家クロノーク。

そして、軽装歩兵たちの指揮官であるトルント伯。

さらに、ルケス、トレット、ミアル、シューヴァ。

どうやらみんな騎士だと教えてくれた。


そして、ここで私たちの扱いについて話し合うつもりらしい。

私はこんな待遇を受けるのは、他世界から来た者。

だからかと思ったけど、考えれば子供だから……そう言う体験した事もあった。


「さあ、ここなら落ち着いて話せるでしょう」


そう言うと探検家クロノークは椅子に腰を下ろした。

私たちは隣の数人掛けのソファに腰を下ろした。


トルント伯は反対側のクロノークの隣に座り、

他の者たちは適当な場所に腰を下ろす者もいれば、

そのまま立っている者もいた。


やがてテントの外から、若い兵が湯気の立つお茶を運んで来た。


私と目が合うと、彼は一瞬びくっとし、

慌てたようにトレイを置くと、すぐに部屋を出ていった。

その様子に、探検家クロノークはくすりと笑いながら口を開く。


「まあ、食べながらでかまわないが――まずは、名前を聞いてもいいかな?」


私は周囲を見回した。彼らは、見た目こそ少し違う程度だけど、

肌の色が不思議とみんな色素が少ない、日に焼けていないように見えた。

この谷底ではわかりづらかったけど、

もしかすると太陽の角度が低いせいなのかもしれなかった。


――そう考えると、やっぱり私たちは違う世界にいるんだ!


「私、瑠る璃です!」


思わず興奮気味に名乗ると、続けて問いかける。


「ここって、私たちの世界とは違いますよね?

すごいです、別の世界ですねー!」


私の言葉に、探検家クロノークは眉を上げ、嬉しそうに微笑んだ。


「……ふむ」トルント伯はわずかに頷いたが、表情は崩さない。


他の者たちは、興味や驚きを隠せない様子だった。


探検家クロノークは勢いよく立ち上がると、

さらに嬉しそうにトルント伯へと語りかけた。


「もし彼女たちが“悪魔”であったとしても、

それは私たちの古伝書の解釈が間違っていたに違いありませんよ。

それどころか、天使なのではないかと思うほどです!」


探検家クロノークの明るい声が響く。

しかし、トルント伯は落ち着いたまま、どっしりと座ったまま微動だにしない。


「落ち着き給え、クロノーク」


低く、威厳のある声でそう言うと、じっと彼を見据えた。


「お前の言っていることも、今の状況を鑑みれば一理ある。

だが、古伝書の解釈をお前が勝手に捻じ曲げることはできん。

この件の判断は、教会へ委ねる」


トルント伯はまるで動じることなく、椅子に深く腰掛けたままだった。


「この件の最終決定は、本来、俺のはずですが……」


探検家クロノークは、わざと嫌味っぽく異論を唱える。


「だからこそ、教会へ行くのだ――」


トルント伯は短く言い放ち、探検家クロノークの様子を静かに見ていた。

不満げな表情を浮かべたものの、

すぐにいつもの笑顔に戻ると、軽く肩をすくめた。


「では、教会でお会いしましょう」


そう言うと、私たち以外の者たちを手振りで促し、外へと出て行った。


クロノークは立ち上がり、部屋の隅にあったケーキスタンドを持ち上げると、

満足そうに頷いた。そして、そのままルクミィさんの隣に腰を下ろした。


「すまないね」


探検家クロノークは、少し申し訳なさそうに笑いながら続ける。


「俺も、他世界の人と会うのは初めてなんだ。

それに、これまで“そう言われていた”者が数十年に一人、

いるかどうかも定かではなかったし、

その人が本物かどうかを確かめる術もなかったからね」


……彼の言っていることは、私の世界と似ている気がした。


クロノークはケーキやお菓子を手際よく並べていく。

次々と皿が増えていき、テーブルが彩られていった。


お茶も注がれ、見たこともない料理が並んだ。

食べたことのない味。香りも、見た目も、全部が新しい。


やっぱり、他世界ってすごい。


そのあともルクミィさんは、真剣な顔で探検家クロノークと話していた。

でも、その会話がヴェルシーや私に向けられることはない。

ヴェルシーも、静かにお茶をすすりながら、話を聞いているだけだった。


……私たちが子供だから、かな?


まあ、それは仕方ない。

どこの世界でも、子供の扱いって似たようなものみたいだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ