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彼女の∞と私の零と  作者: イニシ
第三章:魔法王ジ

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050話:多次元パズルを解くのは時間の鍵で…

何も動かない世界。


――それがわかるのは、私たち"だけ"がいるから。


この世界で、私は"ただ探す"だけ。


辺りを見渡す必要はない。だから、私は動かない。


ほかの人は、"私を待っている"。


――動かず、ただ待っている。


***


――調停者ジーンが、ルクミィさんに話しかけている。


「――魔賢人フェプス老様が、

ルクミィ様に対し"無期限の戦い"をお申し込みになられました。

いかがなさいますでしょうか?」


ルクミィさんは、微笑みながら老人を見る。


「魔賢人フェプス老さま……」


「私に、これほどの知識をくださったのは、これを予期されていたのですか?」


「……わしも、ここまでは考えておらんでな」


老人は、フッと息をついた。


「まぁ、いい」


「――こんな気持ちになったのも初めてじゃ」


「魔法王ジ様のおかげで、そして――お前のおかげじゃ」


「……あー、どんどんお前に勝てなくなるでな。いくぞ」


「はい! 魔賢人フェプス老さま!」


ルクミィさんは、迷いなく答えた。


――動くものは何もなかった。


……なんだろう?


この世界に、光の線が三つ――何かの"ひっかき傷"のような痕が残っている。


ルクミィさんの方から、幾度か響く「キィーン」という音。


そのたびに、辺りに生い茂っていた植物種が"音もなく"消えていく。


そして、また何もない。


まるで、水面のようにゆらぐ世界が戻ってきた――


私は、魔賢人フェプス老を見た。


――彼の"小柄な体"は、頭を含め、"三分の一ほど"失われていた。


けれど――。


魔法人の体の中も、私たちと同じなんだね……


不思議と、それ以上の関心は湧かなかった。


また、ルクミィさんへと視線を移す。


――彼女の肩から先が、"なくなっていた"


ルクミィさんは「人ではない」と言っていた。


でも、今見る限り、私と彼女の違いは"ない"ように思えた。


――それなのに。


彼女は、痛がっている様子すらなかった。


再び、辺りに植物種が生え始めた。


好きな場所に、好きな向きで、どんどん生える。


――この世界で"動いている"のは、植物種だけ?


……いや。


"人"が動いている。


魔法人? でも、角はない。


――どんどん"人"が増える。


十人……百人……千人……。


遠くにも、たくさんの"人"がいる。


彼らは、まるで植物種と"共生"しているかのようだった。


――数人の子供が、こちらへと近づいてきた。


そして、隣にいたルクミィさんの"なくなった腕"を触る。


えっ……?


私も、思わず触れてみた――


そこには、"ルクミィさんの腕があった"


今は、もう見えている。


子供たちは、微笑んでいる。


ルクミィさんも。


「強いですよ、私」


そう言うと、彼女はただ静かに――動かず、私を待っていた。


私も、微笑む。


そして、もう一度、魔賢人フェプス老を見る――


だが、そこに"彼の姿はなかった"。ローブだけを残し、消えていた。


調停者ジーンは、ここに来た時と"同じように"、そこにいる。


私は、再びヴェルシーを探した。


この"人"たちは……放っておこうかな。


「……探さないで」


……ん?


"この人たち"が、言っている?いや――違う。私は"そう"思った。


この声は――"魔法王ジ"だ。


……そう感じる。


どこなんだろう?


「探すよ、見つけるまで……ずっとね」


――私は、魔法王ジに、そう言ってみた。


すると――。


まわりの"人"たちが、小さな光へと変わった。


そして、さらに小さくなって……私でも、もう"見えなく"なった。


"人"たちが、どんどん消えていく――


「お願い……探さないで……――だから」


――また、動きのない世界に戻った。

しかし――またしても、植物種が"動き出す"


"崩壊"に向かって。


植物種は枯れて、そして――消えていった。


再び、"何もない世界"へと戻る。


……だけど、今はなぜか落ち着いて、一息ついた。


ちょっとだけ休もうかな……


私は、その場に座り込んで、足を組み、腕を抱えながら目を閉じる。


「――瑠る璃」


ヴェルシー……?


私は、目を大きく開け、見る。


そばにいるはず……!


けれど――見えない。


いない。


突然――。


頭を両手で掴まれ、ガクガクと揺さぶられる。


「そっちじゃないでしょ」


えっ!?


その声の方へ、慌てて振り向く。


――ヴェルシーが、目の前にいた。


「ヴェルシー……!」


私は、思わず彼女の顔を触りまくる。


こんなに触ったこと、あったっけ?


――いや、ない。


でも、ずっと撫でてもいい気がする。


しかし――。


「もう、触りすぎだから」


ヴェルシーは、少し照れたように顔をそらしながら、私の手を振り払う。

けれど、次の瞬間にはそっと私の手を取り、立ち上がるのを助けてくれた。


私はヴェルシーの手を借りて立ち上がる。


まわりを見渡す。


――ここは……どこかの洞窟?


そして、目の前には――巨大な扉。


……なんだろう、この扉?


ふと、視線を横へ移す。


あっ……!


――岩陰に、ルクミィさんが倒れていた。


ルクミィさん!?


すぐに駆け寄って。大きな声で呼びかけた――。けれど、返事はない。


脈を調べようとするが――"ない"ようだった。


でも……ルクミィさんは"人"ではないはず……大丈夫だよね?


そんな不安がよぎった瞬間――。


「もー、瑠る璃、僕がいるでしょ?」


ヴェルシーの声に、私はハッとする。


そうだ、今はヴェルシーがいるんだった……


ヴェルシーがルクミィさんの額に触れる――。


その時――。


私は小さく呟いた、


ルクミィさんは、服をパタパタと払いながら、起き上がった。


「ぁぁ……」


声を確かめるように、小さく息を吐いた。そして、ルクミィさんは――。


「ふぅ、起きましたよー」


いつもと変わらない調子で、にこっと微笑んだ。


「瑠る璃さま、おめでとうございます」


「初めまして、ヴェルシーさま。そして、おめでとうございます。」


「――元の世界へ戻りました」


ルクミィさんが数歩前へ進み、ゆっくりと両腕を広げる。

それだけで――触れることなく、巨大な扉が開き始めた。


岩がぶつかり合う音が響く。

そして、その隙間から――まばゆい光が射し込んでくる。


やがて、ルクミィさんが両腕を下ろすと、扉の動きも止まった。


完全には開いていないが――私たちが通るには、十分な幅だった。


……どうしよう?


ヴェルシーに、ルクミィさんのことをどう話せばいいか迷っていると――


「大丈夫だよ、瑠る璃」


ヴェルシーは、私の心を見透かすように微笑む。


「今の君は、何も隠せないほどだよ。僕にはね」


……そっか。


不思議と、ヴェルシーの言葉に安心する。


「じゃあ、僕たちと一緒に行こう」


ヴェルシーがルクミィさんへ手を差し出す。


すると――


「はい。ヴェルシーさま。嬉しいです。」


ルクミィさんは、一度深く頷く。


そして、私の方を見つめて――


「……瑠る璃さま」


優しく名前を呼ぶ。


二人を交互に見つめながら――

ルクミィさんは、胸がいっぱいになったような顔をする。


けれど、続けて、しっかりと言った。


「私は、一生かけて、お二人について行きます!!」


――しかし、そのあと、少しだけ表情を和らげると。


「……ですが」


静かに、一歩下がる。


「今から、お暇をいただきます」


私は、驚いてルクミィさんを見つめた。


「一度、国に帰ります」


そう告げたルクミィさんの瞳は――まっすぐだった。


「えーっ……」と声を漏らしたけど、一度呼吸を整えて、

まっすぐにルクミィさんを見つめた。


「また。……また絶対会えるよね?」


「余裕ですよ! 心配しないでください!」


ルクミィさんは満面の笑顔で答える。


「瑠る璃」


ヴェルシーの真剣な声が、私を呼び止めた。


「僕も、家に帰るよ」


「……えー?」


「帰り道で話すから。とりあえず行こう」


そう言って、ヴェルシーは光が差し込む先へと歩き出す。


ルクミィさんを見つめる、一度頷くと、私はその背中を追った。


帰るみたい――わが家へ。

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