046話:私が女神なら…時間を操れるのかな?
「ルクミィさーん、どこに行くの?」
先頭を歩くルクミィさんが、ランタンを手にして進んでいく。
私の知らない道。だけど、この洞窟の中では、意外と歩きやすい道だった。
「瑠る璃さまのお話によれば、大変な災害に遭ったそうですね?
なので、対策のために保管湖から持ち出そうと思っています」
そうか、私が湖の中で見たものは、ガラクタのようにも思えたけど。
でも、改めて思い返してみると、
"何に使うのかわからないもの"も、かなりあった。
きっと、その中にあるのかな。
――あの"魔法牛"のような災害に対処できる、何かが。
すごいなー。ルクミィさんは頼りになるし、私の話をちゃんと聞いてくれる。
そして、最善を尽くしてくれる。
頭もいいし、カッコいいし、強いし……
――それに比べて、私は……
なんだか、時間を止めてしまって、そのまま寝てしまいたくなってきた。
時間が進まなければ、何も考えなくていいよね?
――あっ、そうだ。
ヴェルシーが、私のことを「神」だと言ってくれてた。
さっき、ルクミィさんも「時の神様がいる」と言っていたし――
……ということは?
女神である私は、時間を操る能力を持っている……かもしれない?
思考が、ぐるぐると巡る。結局、私はまた"囚われている"――
「瑠る璃さま、着きましたよ」
ぼーっと考え事をしていた私は、ふと顔を上げる。
目の前には、私をじっと見つめるルクミィさん。
……いつの間に?
どうやら、私が平気そうか確認してくれていたみたいだ。
そして、ちゃんと前を見ると――
ルクミィさんの背後に、まるで後光が差しているように見えた。
え……? すごく神々しい……ルクミィさんが女神?
「瑠る璃さま、見てください。この方が、
保管湖の物品を貸し出してくださるエレさんです」
そう言うと、ルクミィさんは一歩横へとずれる。
――その奥に"輝く人"が立っていた。
……人?
――いや、"人"と言っていいのだろうか?
その存在は――頭もなければ、手足もない。
カクカクとした形をしていて、ただの"机"のようにも見える。
えっ、これがエレさん……?
でも、魔法人は見た目だけではわからない。
私はルクミィさんと一緒にそばへ行き、恐る恐る挨拶をした。
「エレエレ――エレエレエレ」
……喋った、のかな?
私には、まったく意味がわからない言葉だったけど、
隣では、ルクミィさんが淡々と話している――と思う。
私は一呼吸おき、ゆっくりとエレさんを見る。
……あたま?の辺りは見た事のない言語で、
何か書いてあって一番ひかり輝いていた。
どこから声を出しているのかもわからない。
「エレエレー」
そんな中、ルクミィさんが目の前にある黒い板に手のひらを乗せる。
ピッ――
すぐに、高い音が鳴り響き、その直後――。
ガタッ。
小さな振動とともに、足元の引き出しがわずかにせり出した。
ルクミィさんは、その取っ手を掴み、ゆっくりと引き出す。
「瑠る璃さま、見てください。こちらです」
そう言って、ルクミィさんが見せてくれたのは――
深い箱のような引き出しの中に、様々な"物"が詰め込まれていた。
……いろいろあるけど、私にはガラクタにしか見えないよ……
ルクミィさんは、物品をぽいぽいっとリュックに放り込み、
魔法人エレに軽く挨拶をすると――
「いきますよー」
そう言いながら、私の手を握り、歩き出した。
ルクミィさんが何を言っているのかは分からなかったけど、
私も最後に「さようなら」と魔法人エレさんに言った。
ルクミィさんは、どうやって魔法人の言語を覚えたんだろう?
取得するの、大変そう……
――それに、この保管湖の物品も、すべて把握しているのだろうか?
たしか、管理していると言っていたので、きっとそうなのだろう。
「すごい、すごい!」
私が感心しながら言うと、ルクミィさんはクスッと笑って――
「これは全然すごくないですよ」
そう言った。
……でも、きっとすごいに違いない。
「そうだ。ルクミィさん、剣で戦えるなんてすごいです」
私が感心しながら言うと、ルクミィさんは小さく微笑んだ。
「私の兄さまたちは武系なので、いつもそのような剣で練習していました。
でも、私は軽いものしか扱えなくて……。
だから、短い剣の使い方しか覚えなかったんです」
「ふふっ。その剣も私の”体”ですので、すごくないですよ」
ルクミィさんは、まるで当たり前のことのように言う。
"剣も私の体"……?
私にはよくわからない例えだったけど――それが、なんだかかっこよかった。
「瑠る璃さま、そろそろ魔法牛に出会った場所に着きます」
ルクミィさんの声が少し低くなる。
「その時の私は、なぜあそこを通ろうとしたのか――
わかっていませんでした。でも、今ならわかります」
私は思わずルクミィさんを見る。
「魔法王ジ様がいるのは、あの場所です」
「……あの場所?」
「ええ。この世界には、場所に名前がついていません。
でも――"あの場所"なんです」
ルクミィさんの表情が、どこか鋭くなる。
「魔法牛さんの災害は、いわば"門番"でもあったようですね」




