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彼女の∞と私の零と  作者: イニシ
第一章:少女二人

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ここが帝都最南奥宮殿なのね、着いたけど不安だよ

カメレオンのような言葉。


(私)が書いた、この小説の言葉――

カメレオンのように変化するけど……。


たとえば『赤い実』という言葉が――

そう、あなたにはリンゴ、イチゴ、あるいはサクランボに見え、

他の読者にはクランベリーやザクロに映るかな。


読者の文化や経験に合わせて、物語の色が変わるから、

カメレオンと私は呼んでるの。


あなたにはどう見えるのかしらね?


これからも変化してゆく世界を。

浮遊乗環ふわりんは、ものすごい速さでふわりと進んでいる。

地面から数十センチ浮かびながら、静かに帝都に向かっていた。


魔法的舗装路の上しか進めないふわりんは、このままでは寄り道もできない。

私は乗内でこの先どうすべきか考えていた。


――「ぐぅー」


一人きりの静寂に、お腹の音が響いた。


朝から何も食べていなかったせいで、思考力が低下していると思う。

窓にもたれかかり、外を見れば通りは人々で溢れ、食べ物屋が立ち並んでいた。

見ているだけで、ますます空腹が募る。


「……サンドイッチ、食べたい……」


もしかして、あちらに着いても何も食べられなかったりして……。


はぁん……ため息がこぼれた。


小ぶりな口から吐き出された息が、窓を曇らせた。

曇ったガラスを見つめながら、「ふーっ」と吹くと、曇りが少しずつ消えていく。


……その先に、最南奥宮殿が見えた。


帝都にはたくさん人々がいるけど、宮殿内にはほとんど見かけないようだった。

――着いた最南奥宮殿の入り口には誰の姿もない。


私は降り立つと、ふわりんは音もなくどこかへ行ってしまった。


「……静かね」


風の音さえ遠くに感じる。先ほどまでふわりんの中まで聞こえた喧騒が嘘のようだった。

この宮殿は特別な場所に感じた。


正門ではないようだけれど、ここは一体どこなのだろう? 両手を握りながら辺りを見回す。


「こちらへどうぞ」


「ひゃ!なに?」


驚いて辺りを見て足元を見る――黒猫がこちらを見上げていた。


黒猫はそれ以上何も言わず、振り向いて通路の先へと歩いていく。


ついて行けばいいのよね?


帝都には使い魔の黒猫が多くいることは聞いた事あるけど……。

でも……しゃべるのね、この子


通路の先には断崖絶壁がそびえ、その手前に宮殿内室があった。

扉には私の名前が書かれたプレートが掛かっていたので間違いない。


黒猫は役目を終えたのか、足音もなく通路を走り去っていった。


「誰もいないのね……途中で食べてくればよかったな」


独り言をつぶやきながら、自分用の内室に入る。すでに荷物も届いていた。

部屋は広くはないが、使いやすそうだ。


窓際の椅子に腰かけ、ぼんやりと考える。


碧り佳姉様。深る雪姉様。不安だったけど牢獄じゃなくてよかったです。えへっ。

どうやら囚われ人ではないらしい。


少し部屋を見回した後、出店へ行こうと外に出た。


「……この壁、高い……」


改めて近くで見ると、以前の印象とは違うかな?

昔から何回か帝都には来た事はあるし、

これほどの高さの建物もないから、印象に残っていた。


左右どこまでも続き、見上げれば果てしなく高い。

そう、ただの壁なら気にも留めなかったはずなのに、ちょうどあの花が真上に見える。

断崖絶壁の頂に咲く巨大な花。


幼い頃、姉様たちと何度もこの話をしたことを思い出す。

『この花の下には何があるのか?』

『どうしてここだけに咲いているのか?』

――誰も答えを知らなかった。

でも父様が、ある時教えてくれた。


この絶壁に咲いている巨大な四つの花は『四姉妹の塔』と呼ばれているのだと。


「やっぱり……四つの花」


首が痛くなりそうなほど見上げていた視線を戻すと、目の前に女性が立っていた。


「ひゃ!」


「失礼しました。わたくしはイースと申します。」


女性は大人しい声で伏し目がちに言葉を続けた。


「ミドリノトール・瑠る璃さま。私が今日からお世話をさせていただきまふっ」


緊張のせいか、彼女は噛んでしまい、さらに深く頭を垂れた。


――「ぐぅー」


「……あっ!」


しまった。聞かれてしまったかもしれない。


うぅ……なんでもいいから、なにか食べたいよ……。

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