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彼女の∞と私の零と  作者: イニシ
第三章:魔法王ジ

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038話:保存湖で保存されていたのは、物だけじゃなかったよ

はぁー。疲れたなー。あれ? なぜだろう? ……何も頭に浮かんでこない……


もう一回……もう一回寝とこっと……


――あ……視線を感じる……


あーヴェルシー、そこにいるんだ……

よかった。もう起きるよ……もうちょっと……眠ったらね……


――大きなため息をついて、目が覚めた。


ゆっくりと瞼を開けと、そこはいつもの――知らない場所だった……


あぅ。背中が痛い。ゴツゴツした岩場で寝ていたらしい。

起き上がった瞬間――違和感に襲われる。


――えっ、私は水の中にいるの?体にまとわりつくのは確かに水のようだ。

意識をしながら呼吸をする。


……はぁーはぁーあれ?水の中でも私は大丈夫だよね?


焦りそうになるけど、深呼吸をして、落ち着いて確認する。

息ができる――それなら問題ない。


これって、"あの"魔法のおかげかな?……


胸に手を当てると、心臓の鼓動は静かになって、穏やかだ。

落ち着いた、よし!行ける。


よく見ると右手には、片方だけの靴を持っているし。

腕にチクチクと当たっていたのはフォーク。左手で触れていたのは、

滑らかな壺のようなもの。そして円形の食器棚の上で横になっていた。


なんだろうここは……?


見渡すと、そこには貴金属やバラバラの食器、雑多に転がるガラクタの山――

まるで整理されていない。私の宝箱の中みたい。


大事なものもあるけれど、必要のないものもたくさん詰め込まれた、

あの散らかった箱にそっくりだ。そして――私は、その谷底にいる……


とりあえず、登ってみようかな。


私は立ち上がろうとした――だけど、

勢いで浮かんでしまい、思うように動けない。

体をピタッと動かさず、なにもしなければゆっくりと沈み元に戻った。


次は、足をバネのようにして、ぴょんと跳ね上がる。

さっきよりは浮かび上がれたが、水の抵抗ですぐに動きが止まってしまう。


何度か試みたけど、結果は同じ。逆立ちになったり、くるくると回ったり、

まるで水中で踊っているみたいだった。


はぁん……ダメだ、あきらめよう。


全身の力を抜いて再びゆらりと沈み――

円形の収納棚のような物に、寝転がるようにして着地した。


ふー、次はあれをしてみようかな


――今度は浮かび上がらないようにして、

そこらのガラクタを伝って登ることにした。

ゆっくり行けば、きっと大丈夫でしょう。


慎重に手足をかけながら、一歩ずつ進む。足は埋もれちゃうけど平気だ。

――ガラクタ山の中腹まで来たとき。周囲のコインが、カラカラと崩れ出す。


あ……っ!


思わず動きを止め、息を潜める。崩落は徐々に収まった。


ふぅ……もっと慎重に歩かないとダメね。

大丈夫。気をつけて進めば行ける――


気を引き締めて歩いた。次の瞬間だった。


――ガラッ――ガラガラガラッ!!


今度は大規模な崩落が起こった。


細かいガラクタの波に乗ってゆっくり迫ってくる、

大きなテーブルやシャンデリア。


どこにあったのかわからない剣や大剣、

果てはナイフのダースまでもがやって来た。


反射的に私は、まるで空へと飛んでいた。

できるだけ遠くへ、できるだけ高く……


巨大な雪崩のようなガラクタの流れを、完全に回避する事はできた。

安堵して、そっと目を閉じた。――谷底に着くまで。


――ふぅー。どうしたらいい? ヴェルシー。

いない彼女に問いかけてみたけど、やっぱり返事はない。


たぶん、一番高い山に挑んだのがダメだったよね……?

次はもう少し低い山を登るね……


そう呟きながら、ふと違和感を覚えた。


……えっ? 私、いま手を握ってる?


握っているものを、ゆっくりとよくさわってみる。小さい手――じゃない。


ヴェルシーの手じゃないよね……だれ?


彼女はもっと小さな手のはず。

なのに今握っているのは、明らかに別の誰かの手だ。


――勘違い……?手じゃないかも。そう思いながら、慎重に身を起こした。


だけど、やっぱり間違いじゃなかった。

私の手は、確かに誰かの手を握っている。

細かなガラクタに埋もれていて、腕も体も埋まっていそう。


え……誰?


胸の奥にざわりとした感覚が広がる。

ひとつずつガラクタを掘り起こし、投げ捨てながら、

慎重に埋もれた存在を掘り出していく。まずは、頭の方を――。


埋もれたガラクタを払いのけると、女性の顔が浮かび上がった。


……だれなんだろう?なんでこんなところにいるの……?


さらに上半身を掘り出すと上半身が露わになる。


……生きているの……かな?


私は迷いながらも、残る下半身を一気に引っ張り出した。

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