ぴょんと跳ねる私だよ
「こいつは硬くて避けてくれないんだよね。
だから、ぴょんぴょん跳ねながら行こうか?
さっきみたく瑠る璃を軽くするから、行けると思う」
「じゃ、いくよ!」
説明を聞いた途端に、腕を引っ張られた私は慌てていた。
あわわ、まずは軽く跳ねる。――思ったよりも高く飛んだ。
ひゃー、先ほど空を飛んでいたのに、なぜかこちらの方が怖かった。
いや着地に問題があるから……そうに違いないよね。
草の上に着地する。草が揺れて、しなる。
――しなりが止まると、今度はその反発を利用して、また跳ねる。
行けた……!
草がしなるたび、カサカサと乾いた音を立てる。
反発が極限に達した瞬間、シャッと弾かれる。
その繰り返し。
カサカサ……シャッ。カサカサ……シャッ。
完璧だ。進む方向さえ制御できれば――
……右へ跳ねた、と思えば、次は左へ。さらに、気づけば後ろにも跳ねる。
私、どこに向かってるの……?
「目標はないんだから、いいんじゃない? いつか出られるよ」
ヴェルシーは笑いながら、軽やかに私の後ろをついてくる。
「はぅーん。どうしたらいいのー!」
思わず声が漏れる。自分でも驚くくらい、どうしようもない状況。
でも――突然ひらめいた!
近くにある木を目標に跳ねてみる。
何度か跳ねるうちに、なんとか木にたどり着いた。
目標にしていた木とは違うけど……、結果的に成功だ!
もう、跳ねるだけじゃダメ……
思い切って、木を蹴った。
――思った通り!
硬い足場で蹴り飛べば、思った方向に進める。
ただ問題は、まばらに生えている木までちゃんと届くかどうか――
ふわりと、目標の木に向かう。
良かった、届いた! 成功だ!
「よし、次の木へ!」
勢いよく飛び、次の目標へ向かっていった。
「瑠る璃、いい飛び方だね。
――身体強化魔法と軽量魔法、綺麗に操ってるよ」
ヴェルシーは跳躍する私を見ながら、少し感心したように言った。
「魔法使いになれないなんて、勿体ないな……」
「まったく魔法を使えない私でも、
ヴェルシーがいればこれだけ使えるんだから、私、楽しいよ」
どこから飛び始めたのかもう分からないけど、
話ししながら、気がつけば剣の草の背丈は次第に低くなり、視界が広がった。
――そこは見た所安全な場所だった。
「はぁー、疲れた。」
その場にへたり込んで、息を整えた。
ヴェルシーが、いつものように飴玉を取り出して、私の手のひらに置てくれた。
「それでも、マナ回復はできるからね。あとは寝ちゃうとか。
ご飯は食べなくても平気だけど、マナが切れると大変なんだよ」
私は飴玉を舐めながら、「ふーん……」と考え込んだ。
「魔法使いって、思ったより大変なんだ……」
そう呟きながら、空を見上げた。
「もう夕方だね。もう何日も経った気がする。それだけ疲れたのかな……」
私は、ゆっくりと”欠けて”いく太陽を見つめた。
「魔掌ルドさんと魔法生物キューちゃん、大丈夫かな?
最後、あんなになっちゃったけど、平気だよね……」
ヴェルシーを振り向きながら、ぽつりと呟く。
「ねえ、ヴェルシー……お風呂入りたいよぉ……」
もちろんこんな所で入れると本気では思っていないけど、
魔法だったら出来る気がした。
「今はダメかなー。……なにか嫌なものが、近寄ってきてるみたい」
「えっ、なにがくるの?」
「まだわからないけど、反応的には悪い感じがするよ。
あっちから来るから、反対の方に行こう」
私は立ち上がって、汚れた服を軽く払った。
そして、ヴェルシーが示した方向を見た。
――そこに、見覚えのある影があった。
「知ってるよ!あれ、狼型の動植物種だよ!
早く行こう、まだ見つかってなさそう!」
ヴェルシーと視線を交わし、二人はその場を離れた。




