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彼女の∞と私の零と  作者: イニシ
第二章:侵蝕遷移

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結果的に良かったかな……

――たぶん……だけど、私、飛んでいる……?


背中に伝わるヴェルシーの温もりは確かで、安心感があった。

けれど、視界に広がるのは見慣れない景色。太陽の日差しがキラキラ見える。


そらってこんな綺麗にみえるの?


深い空を見ていると何かが見えた。


何か動いている……目がある?生き物?

でも、ひらひらと動き、妙な形をしている。こんなの、見たことない。


きっとこれも、別の――見たことのない、繋がった世界。


その不思議なものは、次第に遠ざかり、やがて見えなくなった。


「瑠る璃、平気かい?」


ヴェルシーの声が、耳元で響く。


「あれ、見て。さっきまでいた植物種の世界が、

あんなに遠くなっちゃったよ」


ヴェルシーが指す方を見ると。巨大な穴ができていて、

粉砕された植物種だろうか、霧がかかっている様に見えた。


「どうなってるの?」


「簡単に言うとね、"飛び上がることに抵抗した"んだけど――ダメだったんだ。

その反発で、こんなに飛んじゃったってわけ。――でもかえって良かったかな」


「……まほうって、すごいんだね」


ぽつりとそう呟くと、ヴェルシーがくすっと笑う。


私もつられて笑った。


「まほうはなんでもできるからね」


ヴェルシーの言葉に、私はもっと笑った。涙が出るくらい、心の底から。


そして、ふと振り向く。


――彼女を、見た。


「あっ」


「えっ、どうしたの?」


少し不安になり彼女を見つめた。


「このまま、さっきから落ちてるみたいだけど……まさか?」


ヴェルシーはゆっくり首を振った。


「違うよ。"いつもの"君の瞳が、綺麗だと思っただけ」


「もう」


私はそうつぶやくと、また背を向けた。


「もう落下速度を落とさなきゃ。ゆっくりね」


ヴェルシーの声に意識を向けると、確かに体がふわりと軽くなった。


――彼女が言った通り、段々と速度が落ちていく。


――地面に近づく頃には、まるで逆に浮いているかのような感覚になっていた。


足が草を踏む。


周囲を見渡せば、ぽつぽつと生えた木々と、

腰の高さほどまで伸びた草が群生していた。


足を動かすたびに、草がふわりと揺れ、進むのがやけに歩きづらい。


「ヴェルシー、これって……危険なやつだよね?」


困った声で問いかける。彼女なら、きっと平気だろうと思って。


「うん、面倒なところに降りちゃったね」


ヴェルシーは少し苦笑しながら答えた。


この草――植物種の中では比較的穏やかな部類に入る。

けれど、もし傷つけてしまうと、一瞬にして硬度を増し、鋭い剣になる。

しかも、その変化は周囲へと波及し、数十分が経つまで元に戻らない。


つまり……うっかり踏み傷つけてたりしたら、

大変なことになるってことだよね?


私はそっと足元を見つめ、慎重に一歩を踏み出した。


――「うん、だめだよ」


私は三歩で諦めた。


動こうとするたびに、草が微かに揺れ、周囲へと不吉な気配を広げていく。


……やっぱり、これ以上は無理。


幼い頃、植物種の怖さを叩き込まれた記憶が蘇る。


「平気、平気だ!」


そう言って、この植物種に真正面から挑んでいき――

そして、血まみれになった、三スイ三兄さまの姿。


ほかにも、ものすごく硬化した実が四方八方から高速で飛んできて、

体に穴を開ける植物や、息ができなくなる毒煙をまき散らして、

そのまま命を奪うものもあった。


兄様は、自らの身体でそれらを教えてくれた。


忘れようがない。


「もう一回、さっきみたいにバーンってどうかな?」


ヴェルシーが考えているのだから、いずれ助かるのは間違いない。

でも、一応聞いてみた。


ヴェルシーは肩をすくめる。


「あれは、僕がやったわけじゃないし……」


そう言って、少し考え込んだあと、植物種の群れを見渡した。


「君が考えてる通り、考えなしに植物種を傷つければ、

倍になって返ってくるし。……”あれ”どうなるんだろうね」


――大きく息をついて、さっきまで居た遠くを見た。


もう、先ほどの穴は見えない。距離も離れすぎて、

何が起こっているのかも分からなかった。


――けれど、空をみてみると、キラキラと光っているように見る――気がした。

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