私、ムキムキじゃないけどすごいよ
「私にはわからないと思うけど……」
そう前置きしながら、私はヴェルシーに尋ねてみた。
ヴェルシーは少し考え込んでから、ゆっくりと説明してくれる。
どうやら、私は"魔法のまの字"すら才能がないどころか、
魔法に耐性すらないらしい。
つまり、ゼロどころかマイナス……?それはどういうこと?
なんだか落ち込むような話だ。けれど、ヴェルシーはそこで終わらなかった。
「でもね、そのおかげでマナを移植できたんだよ」
「えっ?」
「正確には、"マナプール"をね」
「……私が魔法使い?」
一瞬、胸が高鳴った。
けれど――。
「うーん、違うよ瑠る璃」
ヴェルシーはあっさりと否定する。
「自分で魔法を使うには、やっぱり才能が必要なんだよ」
「……だよね。」
少し残念だけれど、ヴェルシーの言葉には続きがあった。
「でもね、受動的な魔法を長く保てるようにするのが、
もともとの狙いだったんだ」
「受動的な魔法?」
「そう。例えば、君にかけた"身体能力を強化する魔法"みたいにね」
それは以前にも使ってくれたものだったけれど――
「前みたいに部分的な強化じゃなくて、今回は全体の強化にしてるよ」
ヴェルシーは、まるで自分の実験結果を確かめるように、
私の動きをじっと観察している。
確かに、今は体の隅々まで力がみなぎっている気がする。なんでもできそう。
「初めてやってみたけど、良かったよ。失敗しなくてさ。」
「失敗してたら、どうなっていたの?」
ヴェルシーは少し考え込むように、小首を傾げた。
髪を指でくるくると巻きながら、しばらく黙ったあと――
「まあ、行こう」と軽く言い、歩き出した。
ここはマナが濃い。だから、ヴェルシーがどれだけ魔法を使おうと、
限界が来ることはない。たとえ失敗しても、即座に回復できるはず。
つまり――そもそも失敗なんて、ありえないという結論だった。
「魔法は、なんでもできるからね。」
ヴェルシーはそう言って、私をちらりと見る。
その言葉は、まるで魅了のように響く。
だって、魔法のことは何も知らないけれど――
それでも、私はヴェルシーを信じているから。
――今までの自分を思い出す。
ベッドの中でぬくぬくしていた私。姉様たちと庭で追いかけっこしていた私。
――そのくらいの差があるみたいだ。
ヴェルシー掛けてくれた身体能力強化の魔法は、
それほどの違いをもたらしていた。
「あとどのくらい使えるの?」
そう聞くと、ヴェルシーは少し考え、肩をすくめる。
「魔法の計算をすれば、残りの時間は分かるよ。
でもね……その計算は、自分にしか分からない計算式なんだ」
「つまり?」
「マナが尽きればわかるってこと。」
「それって、もう分からないって言ってるようなものじゃん!」
「ははっ」ヴェルシーは笑いながら、軽やかに先へ進んでいく。
――道なき道を、跳ねるように駆け抜けた。
そして、崖のような場所にたどり着いた。
向こう側を見渡すと、今までと違う景色が広がっている。
今までずっと植物種の世界を進んでいたのに――
そこにあったのは、明らかに植物種ではない建物。
しかも、あれは私たちがよく知っているものだった。
「……ユキノキ国の建物?」
二人で、目の前の光景を奇妙なものを見るようにじっと見つめた。
この世界で、故郷の風景に出会うなんて――




