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彼女の∞と私の零と  作者: イニシ
第二章:侵蝕遷移

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ありがとう、すごい私になったよ

ヴェルシーは絡み合うツタを解きながらトンネルを進んでいた。

周囲はさまざまな植物種に覆われているけど、光源がないため鮮やかさがない。

そのせいなのか、匂いが重なり合って、食べられなくなった食事のようだった。


地面と言えるものはどこにもない。

植物種が無秩序に広がって、足元の感触はぶにぶにとして柔らかい。

場所によっては弾力があって、次の一歩を踏み出すたびにわずかに沈んだ。


すごい変な坂を登っているみたい……

這うようにして進むたびに、腕と脚に力が入る。


はぁ……はぁ……


息が切れる。最近、碧り佳姉さまに運動不足を指摘されていたのを思い出す。

深る雪姉様とお菓子を食べてばかりだったかも……


ふと、ヴェルシーの様子を気にかけた。


――小柄なヴェルシーにとって、ここは絶壁のように思えるのでは?


そんなことを思いながら、ちらりと横を見ると、

ヴェルシーは壁のように立ちはだかるツタに手を掛け、軽やかに進んでいた。


ローブの袖が長くて手は見えないけど……力を入れているようには見えない


――スッ……。


私がよじ登るのに苦労しているツタの壁を、

ヴェルシーはまるで重力の影響を受けていないかのように滑らかに進んでいく。


……浮かんでる?


心の中でツッコミを入れるが、今さら驚くことでもないのかもしれない。


自分も魔法の影響を受けているのは分かっている。

汗が額から大粒になって流れ落ちても、服の中は妙に快適だ。


眠り絹の寝衣の効果……これがなかったら、もっと大変だったかも


息を切らしながら、ツタの絡む壁に身を預けた。

どこにいるのか、どこへ行くのか――まるで見当がつかない。


「ちょっと、はぁ……待ってね。はぁ……少しだけ休むよ?」


「うん、休もうか……」


ヴェルシーは疲れた様子もなく、ただ静かに私を見つめている。


……なにか言いたそう


少し不安になりながら、思い切って尋ねた。


「どうしたの……私、変?」


……何でもいいから、言葉がほしかった。

自分が足手まといになっていることは分かっている。


どうすればいいのか――それを教えてほしかった。


「僕が言うことを、君は拒否しないってわかってる。

だから迷ってるんだ、僕が……。」


ヴェルシーの瞳が私を真っすぐに捉えたまま、そっと近づいてくる。


「うん、なんでも言っていいよ」


ヴェルシーの真剣な眼差しを見つめ返す。


次の瞬間、ヴェルシーの右手が私の右肩にそっと添えられた。

さらに、もう片方の手が首元に触れる。

そして、額と額がふれた感触、

それと同時に、ヴェルシーの髪がそっと私の頬にふれた。


それはただの接触ではなく、何かが流れ込んでくるような、

不思議な感覚だった。


静かに目を閉じたまま、そのままの状態をしばらく保つ。


――声がする。


ヴェルシーの声。でも、耳で聞いているわけじゃない。

まるで、自分の内側に直接響いてくるみたいだった。


「――ふふっ、瑠る璃。やっぱり魔法はなんでもできる」


突然の声にびっくりし目を開いた。――魔法? 何が起こっているの?


目の前には、ヴェルシーの顔。

彼女は満足そうな笑みを浮かべ、私をじっと見つめていた。


「……どうしたの?」


体を離すと、ヴェルシーはくるりと回るようにして、楽しそうに笑った。


「いいから、もう休んだよ。最初は手を貸してあげるから、ついて来て」


ヴェルシーは何も言わない。ただ、私は彼女の手を握りしめた。


「いくよ!」


彼女の真似をして、一歩、そしてもう一歩。


――ふわり。


体が驚くほど軽い。筋肉の負担が消えて、

足の動きが流れるようにスムーズになった。


まるで、自分の意志よりも先に体が動いているかのようだった。


……なにこれ、私じゃないみたい。でも、気持ちいい……!


最初は戸惑いながらも、ヴェルシーがリズムをとるように手を引くので、

次第にその感覚に馴染んでいく。


「そう、上手だよ」


ヴェルシーの声が、追い風のように優しく響く。


最初は慎重に足を運んでいたけど、次第にステップが軽やかになっていく。


ツタの絡み合った場所を駆け抜けるように進む。


上に向かっているの……?


二人で次々と壁を蹴って跳んで、どんどん高く上がっていく。


「もっと速くてもいけるよね?」


ヴェルシーが私の手を引く力を強める。


目の前に迫るツタの壁を見つめる。


……このまま突っ込んじゃう……!?


不安がよぎるが、ヴェルシーは迷いなく駆けていく。


ヴェルシーを信じよう。思い切って速度を上げた。


足元のツタが弾力を持ち、跳ねるように進むたびにスピードが増す。


目の前に壁のような植物種のトンネルが迫る。

逃げ場はない――そう思った瞬間。


――目の前が開けた!


絡めあうツタがほどき光が差し込む。


……ヴェルシー。ありがとう、すごい私になったよ――ちょっとだけ、ね。


二人で、そのまま外へと飛び出した。

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