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彼女の∞と私の零と  作者: イニシ
第二章:侵蝕遷移

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魔法生物キュー

魔掌ルドさんが作ってくれた食事は、どれも初めて口にする味ばかりだった。

特に気に入ったのは、ほんのりとした苦みのある葉。


私たちの世界では、植物種から食材を得ることは滅多になくて、

多くの場合、犠牲を払って動植物種を狩ることで食料を手に入れていた。


だけど、それはあくまで 「収穫」 というより、

「国を守るための戦いの副産物」 にすぎなかった。


私の国は、最前線の防衛国でもあるのだから。


――それがこんな沢山あるなんて、おとなしい動植物種が飼われていて、

毎日少し収穫できるのかな?


さっき魔掌ルドさんが、

魔法生物キューちゃんも植物種が混じっているって言ってたし、

動植物種の一種なのかしら?


でも魔法界の生物でもある……うーん、魔法が絡んでくると、

一気にわからなくなるぅ。


――その時、どこからともなく『キューーー、キューーー』と響いた。


もしかして、「キューちゃんの鳴き声?」


「この子が合図しているんです。私はここを通ります、とね。」


魔掌ルドはそう言いながら、腕につけたバンドを示す。


「よろしければ、ご覧になりませんか? とても綺麗な場所なんです。」


ピピッーー


どこから聞こえるのか分からないが機械音が鳴り、

続いて部屋全体に低く響く振動。

金属が擦れ合うような音がしたかと思うと、天井から光が降り注いだ。


「え……?」


見上げると、天井が静かに開いていく。


動いているのは、私たちがいる側の半面だけで、

そのまま壁と一体化するように沈み込んでいった。


次に床も消える様に沈むと――半面の天井と壁が、まるごと消えた。


目の前に広がる、圧倒的な風景。ただの窓越しじゃない。


今、私たちは、

まるで世界そのものに溶け込んだかのような感覚に包まれていた。


「ヴェルシー、見て! 帝都だよ!! 空からも……」


私は思わず席を立ち上がった。全身を使って、

少しでも広い視界でその光景を見たかったから。


「こんなに密集している植物種がいるの?

天井からも、大地からも伸びていて……まるで帝都みたいだよ!」


「いつの間にか、僕たち……地底にいるんだね……?」


ヴェルシーは自分の言ったことが信じられず、確かめるように魔掌ルドを見た。


ルドは静かに頷き、少し緊張気味に言った。


「あれが、フロラ王の地下都市です」


「え?、フロラ王……王?植物種の統率者なんですか?」


私はふと、自分の父王を思い出しながら尋ねた。


「正確には、私たちにもわからないのですが、

植物種同士には"統率"という概念が存在しません。

だけど、君たちも知っていると思いますが?

動物種は植物種に上位寄生されている。

だから、その関係を統率と呼ぶこともできるかもしれないので、

そう読んでいるのかもしれません。」


「ヴェルシー……私たちって、小さな世界にいたんだね。知っていたの?」


私はヴェルシーを見つめた。――ヴェルシーも、じっと見つめ返す。


「君より、ちょっとだけ広い世界を見ていただけだったね。僕も」


私は唐突に思った。


「あそこにいる王様に会ってみたい。」


その言葉を聞いた瞬間、魔掌ルドが持っていたグラスを取り落とした。


「……」


あまりに突飛な発言に、ルドは言葉を失う。


「……あっ、ごめんなさい。植物種と話せるわけでもないのにね。」


魔掌ルドは小さくため息を吐くと、しばらく考え込んだ後、静かに言った。


「フロラ王の地下都市――そう呼び始めたのは、

フロラ王自身なのです。おそらく、唯一意思疎通ができる植物種です。」


魔掌ルドはそう言うと、少し間を置き、慎重な口調で続けた。


「でも、勘違いしないでください。ほとんどの場合、意思疎通というより、

一方的な"命令"のようなものです。

これ以上、近づくことは許されていないし、

無闇に能動的探査を行うことも禁止されています。

破れば……どこかに飲み込まれる。昔、そう聞きました。」


「見て瑠る璃。僕は魔法の事しかわからないけど」


ヴェルシーはそう言うと、自分がはめていた指輪を見せてくれた。


あ、指輪の宝石がいくつか見事に粉々になっている……。


「ここの世界自体には僕が"手も足も出ない"ほど、

強力な結界に覆われた場所だよ」


ヴェルシーは何か考えながら、私としばらく風景を見ながら呟いた。


「はぁーぁ……僕の魔法、いつかちゃんと使えるようになるのかな……」

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