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彼女の∞と私の零と  作者: イニシ
第一章:少女二人

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家出って簡単かな?

昨日の特訓は深夜まで続いた。


私にはベッドに戻った記憶がなかったけど、

今、シーツをさわさわと撫でる感触で、ベッドにいると分かった。

汗や泥にまみれていたはずだけど……まあ、究極のベッドだし平気かな。


――つまり、これが最後に寝られるベッド。起きたくないよぅ。


ごろごろと寝返りを打ち、ぱたぱたと手足を動かしながら湯船の近くまで転がっていく。

そこで、ようやく目を覚ました。昨日の底なし風呂を思い出し、慎重に確認しながら湯に浸かる。

首まで沈んで目を閉じて考え始めた。


『蝕界』の時間は、二十二時四十四分に始まり、それから二十三分後に終わる。

つまり、凛々エルお姉様のお叱りを聞かずに済むわけだ。


お姉様は「トールの太陽」と呼ばれるほど、何事にも明快な人。

私みたいに「めんどくさい」とか「あとでー」なんて言ったことがないのでは?

と思うほどだ。まさに眩しい太陽。


……もう一度くらい会いたかったけれど、まあいいか。

でも……お姉様なら、なんとなく許してくれる気もする。きっと、ね。


浄化魔法で綺麗になった服を脱ぎ、ベッド脇に置いた。

代わりに「眠り絹の寝衣」を引き寄せ、頭からかぶる。

何度触れても柔らかく、心地よい。

まるで持っているのか分からないほど軽く、着ているのすら忘れそうだった。


もちろん、今からまた寝るわけじゃない。

この寝衣にはヴェルシーの高等魔法がかけられていて、

下着として身に着けていれば色々と便利らしい。


魔法の力に改めて感心しながら、

お風呂から上がると姿見の前に立ち、自分に気合を入れようとした。


……が、びしょ濡れの自分をじっくり見る機会はあまりなかった。

首をかしげたり、背中越しに自分を確認したり。

なんだか新しい自分が見える気がする。そ

うしているうちに、水滴が蒸発し、髪も服も急速に乾いていった。


いつもの自分に戻った。――いや、そうじゃない。私は成長しているはずだ…。


家出に必要なものは少ない。

最低限の荷物を持ち、『蝕界』を利用してこの世界を去る。それだけ。


――簡単?


どこに行くんだろう? ヴェルシーに任せる? 私は何をすればいいの? 考えがぐるぐる回るだけ。


私はただ、待つだけ。言われたことをするだけ。それまで、じっと待とう。

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