175話:ねぇ、私以外みんな変わってるの?
私が知らない世界が、どこにあるのか。
そして、どうやって行くのか。
「はい、ここからが『非物質界』ですよ」
なんて表札が出てるわけでもないし――
どこにいるかなんて、わかるわけない。
そう、これはもう……迷子だよね。
道がわかる誰かに、そっと手を引かれて、
自分の家にたどり着いた帰り道。
部屋の空気に触れたとき――
思いがけず、ふあぁっと嬉しさが込みあがってきた。
ただいま、ヴェルシー。
抱き合いながら、
「よかった」とだけ――彼女は、そう言った。
でも、どうして。
ヴェルシーは、悲しそうな顔をしてるの?
「十年……長かったよ、瑠る璃」
え……? そんな……
ヴェルシーは変わっていないのに……――
……でも、そうか。
すごい魔法使いって、
年齢なんて、わからないんだ……よね。
考えてみたら――
この家にいる人で、外見を見て成長がわかるのって、
もしかしたら……私だけなのかもしれない。
ルクミィさんは――
何も話をしてくれていなかったし、
すぐに、自分の部屋に戻っていってしまった。
「……私、会わないと」
父さまにも、母さまにも。
会って、話さなきゃいけない。
みんなに……なんて言おう?
「ヴェルシー。私、行ってくるからね」
彼女は、何も言わなかった。
ただ頷いて――そのまま、俯いていた。
私は、思わず早足になる。
宮殿の内室へと続く扉を――勢いよく開けた。
「あ、る、瑠る璃さま! お急ぎですか?」
目の前にいたのは、女官のイースさん。
どう見ても――変わっていない。
「イースさん、十歳もお年をとったはずなのに……
とってもお綺麗ですよね」
女官イースさんは目を泳がせながら、何かを思い出したように
「あっ」と、小さく叫んだ。
「瑠る璃さま、ご存じですか?
荒野ではなく、辺境内国で争いが起きているそうですよ。
どうしたのでしょうね?」
彼女は――私の言葉を、聞こえなかったことにしたようだ。
でも、それでわかった。
私。ヴェルシーに――騙されていたんだ。
もし――
女官のイースさんが、いつも部屋を掃除してくれてなかったら……
実家まで走って帰ったかもしれないのに~。
「イースさん、ごめんなさい。思い出したことがあるから、戻るね」
きっと、あの人はいつも以上に驚いたと思う。
でも――またあとで、ちゃんと会えばいいよね。
結局、どうなっているのか聞きたいし。
私は、ヴェルシーの元へ――
扉を迷わず、開けた。